先日も書いた児玉清の本には、映画やテレビの裏話が出てくる。
中で、傑作だったのは、俳優・信欣三の酒乱ぶりである。
民芸や日活で、あの顎のしゃくれた風貌で一度見たら忘れない信欣三は、インテリや知的な役が多かった。
だが、酒がほんの少しでも入ると性格が全く豹変する酒乱だったらしい。
ある時、児玉は名古屋のテレビ局の連続ドラマに出ることになった。
相手役は東宝のボンド・ガール若林映子で、信欣三は、児玉の父親。
初日、顔合わせと打ち合わせの後、3人で夕食をとる。
ビールとウィスキーで乾杯すると信は豹変し、児玉はいきなり信に小突かれたそうだ。
どういうことかと思う間もなく、児玉は信に大声で罵倒される。
そして町に繰り出し電柱に登り、ディスコで騒ぎ、踊り、大荒れに荒れたそうだ。
ついには、ディスコで知り合った女性セールマンと、児玉らが止めるのも一切聞かず、別荘購入の書類に仮契約までしてしまう。
翌日、不動産屋がテレビ局に来ると、信は何も憶えていなくて、全員があっけに取られたそうだ。
そう言えば、鈴木清順の名作『野獣の青春』では、信欣三は意外にもヤクザの親分。
信欣三の組は、小林昭二の新興ヤクザに押されている落ちぶれ一家。
信と小林の組の間で、多摩川河原で派手な出入りが展開される。
ダイナマイトを投げあったり大変派手なアクション・シーンだが、ここでの信は、嬉々として破壊を演じている。
あれは、信としては本当に楽しんでやっていたのかもしれない。
さらに、思い出したのは、信欣三の妻赤木蘭子のことである。
戦前の新協劇団から東宝映画、さらに独立プロと民芸と、新劇女優としては、美人だった赤木は、かなり多くの映画に脇役として出ている。
だが、彼女は精神的疾患があったそうだ。
そう考えると、彼女の夫・信の酒乱も夫婦関係の問題に起因していたのか。あるいは信が酒乱だったことが、赤木蘭子の精神的問題に影響してのか、これはどちらが原因で結果かは大きな問題であろう。
コメント
コメント有り難うございました。
役者について、以前から色々と採り上げられておられますが、この点で、最近、ちと、思うことがあります。
先日、福岡で放送されたアーカイブ作品に「博多淡海」という人の特集がありました。
博多淡海という人物をご存じでしょうか?
昭和50年代に藤山かんびなどと吉本新喜劇などでやっていた人物で、当時、いつも土曜の昼に学校から帰ってくると放送されていたこともあり、私などはよく知っておりました。
役者バカという点では、酒も含め、この人のそれは、ちと、桁外れだったようですね。
改めて、機会が有れば、当方でも、この人のことを採り上げてみたいと思っているのですが・・・。