『人生双六』


松竹新喜劇の『人生双六』を見ようと思ったのは。演出が米田亘だからだ。
米田君は、私が早稲田大学劇団演劇研究会の2年の時、小山祐士の『黄色い波』の大道具をやったとき、助手で付いてくれた一人だからだ。
彼とは同学年だが、私は現役で入り、米田君は1浪したので、一年下にいたのだ。おそらくは、名門高北野高校だったので、京都大学等を目指していたのだと思う。
彼と話していて憶えているのは、「松尾昭典君を知っていますか」で、日活のファンだった私に合せた質問だった。
「もちろん、知っているよ」というと、
「高校の先輩なんです」と答えた。

この茂林寺分福作の劇は、古くさいと言えば古く、「こんなものを演出していたの」とは思う。
ただ、これは言うまでもなく、藤山寛美にあてて書かれた劇なので、いくら孫とは言え、藤山扇治郎がやるのは大変だと思う。
1966年頃の話で、偶然に街頭で出会った男二人、一人は四国から出てきた文無し。もう一人も貧乏人で、偶然拾った30万円入りの財布を拾い、ネコババしようとしていたが、文無し男にやはり正直に届けるべきだと言われて改心する。
そして、5年後の今日にまた会おうと約束する。

5年後、男は拾った財布を届けて、その会社の社長に見込まれて社に採用されて専務になり、社長の娘と結婚している。
その日の午後、木材会社の脇の鉄道に男が飛び込んで負傷して、事務所に運ばれて来る。
社長の母親は、その男が、約束の男だと分かるが、彼は5年間、仕事に失敗して自殺する気だと言う。
そして、立派な服を着せて、息子と再会させる。
再会して、藤山扇治郎は、九州で食堂で成功していると嘘をつくが、もちろん最後は嘘がばれる。
そして、また5年後には成功して、また再会しようと約束する。
新喜劇得意の人情劇で、私には古いとしか思えないが、それも劇である。

和田尚久さんの「オーラルヒストリー」によれば、米田君は、大学時代から松竹新喜劇を見ていたとのことで、驚く。
私も、全盛期の藤山寛美の新橋演舞場公演を見ているが、大学を出てからだ。

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