川村毅作・演出の『新宿八犬伝』シリーズを前に見たのは、1985年7月で、今はない新宿の歌舞伎町のACBホールだった。
そこでは、ヒットラーとエバ・ブラウンが新宿に現れるワープ劇だったが、中身はひどいものだった。
それより以前、横浜の東高島埠頭で行われた野外劇『ボディー・ウォーズ』も見ているが、なんともバックの大動員のボランティアの群集等の仕掛けの大きさの割には、希薄な中身のない代物だった。そのとき私は、川村は、かつて小林旭が「無意識過剰」と言われたことに倣えば、「無神経過剰だな」と思ったものだ。
その後、ランドマーク・ホールで行われた、唐十郎が出たベケットの改作劇も見ているが、これは全くどうにもならないものだった。
さて、今回は、彼が主催の劇団第三エロチカを解散することになり、その最終公演が全国で行われるとのことで、彼の出身地横浜からスタートした。
ここでは、新宿の犬どもが革命を起こし、人間を支配する幻想劇である。
つまり「犬革命」である。
なんとも設定は大きいが、残念ながらというか、いつものとおりと言うべきか、中身はきわめて乏しい。
だが、延々3時間やる腕力は、相変わらずすごいと言うべきだろうか。
役者は大変豪華で、主人公の新宿のよろず相談所長に小林勝也、失踪した愛犬捜査の依頼人が広田レオナ、その他ラーメン屋に有薗芳記、手塚とおる、藤谷みき、葉山レイコなど。
地元女優でゲスト出演の五大路子の大張り切りには、腰が引けたが。
最後は、アングラ劇の恒例の、活人画風の陶酔的なシーンを何度も重ねるが、私にはさして感動はなかった。
それは、なぜか。
理由は簡単で、そうした陶酔的なシーンを川村自身が信じていないからである。
こうしたワープ劇は、すでに松尾スズキのミュージカル『キレイ』等に簡単に乗り越えられてしまっているからである。
勿論、松尾も劇画的世界を信じてはいない。だが、嘘八百を面白おかしく見せてやろうという意思はある。川村にはあるまい。その分、松尾やクドカンらの若手には、はるかに劣ってしまっているのだ、川村おじさんは。
松尾らの方が、劇画的な幻想劇を商業的に巧みに、また受け入れやすいように作っている。
簡単に言えば、川村毅は時代にズレて来ていたと言うべきだろう。
「川村毅もなかなか大変だな」とご同情申し上げた一夜だった。
久米大作のテーマ曲はなかなか悪くないが、『荒野の用心棒』等のエンリオ・モリコーネの曲は、当然だが誠に素晴らしい。
だが、この劇を見ながら考えていたのは、「これを映画にすれば面白いのでは」だった。
八人の男女が犬の剣士になってしまうのは芝居では形象化しにくいが、アニメ等の映画なら、二重性の絵として可能だからである。
是非、川村にはアニメ化をお勧めしたいと思う。
それに、昔の『ボディー・ウォーズ』では、大きなテーマとしてあった、外国人の問題がなくなったのは、近未来ではなく、現在の問題になっているのに題材として出てこないのは、変ではないだろうか。
横浜市泉区テアトル・フォンテ