北朝鮮映画で、初めて面白いものに会った。
『洪吉童(ホン・ギル・トン)は、朝鮮半島の有名な民間伝承だそうだ。ネズミ小僧みたいなもの。
タイトルから、躍動した映像が続く。日本のテレビ「必殺シリーズ」やジャッキー・チェン映画の影響が大きい。
北朝鮮最初のアクション映画で、ワイヤー・アクションも取り入れている。
主演のリ・ヨンホは、兵庫から帰国した在日三世だそうだ。
両班の息子だが、妾の子だったので、迫害され、追放された洪は、山中で仙人に会い、道術を習う。
そして、村に下りる。
盗賊等を征伐し、飢餓の農民を助け、大臣の娘からも惚れられる。
勿論、娘の親は許さない。
そして、盗賊の他、倭奸なる、日本の悪党も追い払ったとき(日本人の悪党が朝鮮の女を連れて行くのだから、日本人女性の拉致問題の逆であるが、北朝鮮の人間はそう見ているのだろうか)、王様は、褒美として「何事でも良い、希望の品を願え」と言う。
洪は、大臣林の娘との結婚を希望するが、王は「それだけは、どうにもならん」と言う。
封建体制は、身分制は絶対に変えられなかったのだろう。
そして、洪は、林の娘と共に新たな航海に旅立つ。
そこのナレーション。
「世に迫害、差別等々があるが、そうしたもののない、自由で平等な世界を目指して洪は進む。果たして、そんなところがあるだろうか」
これは、キム・ジンイル体制への強烈な皮肉ではあるまいか。
今から40年以上前、市川雷蔵主演、森一生監督の傑作『忍の者・伊賀屋敷』を見て、この人は本当は反体制思想の方ではないか、と思ったような感慨があった。
いまどき、北朝鮮の映画を見るなど、非国民と言われそうだが、やはり見てみるものである。