『キネマの天地』

井上ひさし作、栗山民也演出のこまつ座の新作と思ったが、実は25年前に大船撮影所50周年で、映画『キネマの天地』が作られたとき、その続編として劇化されたものだそうだが、あまり話題にはならなかったもの。

出演は、松竹蒲田撮影所のスター女優の麻美れい、三田和代、秋山菜津子、大和田美帆の4人の女優がメインと見えるが、実は木場勝巳、浅野和之、古河耕史のスタッフたちだった。
大幹部で女王様のような麻美れい、幹部待遇で母物専門の三田和代、幹部でバンプ役の秋山菜津子、そして新進女優で人気沸騰中の大和田美帆らが、互いを敵視し、皮肉り、批判しあう。
時代の1935年この頃は、松竹でもすでに1931年に『マダムと女房』でトーキーを初製作していたが、松竹のいつものケチケチから、大部分はサイレントや部分トーキー、あるいはサウンド版でお茶を濁しているトーキーへの移行期だった。
蒲田撮影所も、「夢の工場」と呼ばれ、スターをめぐる様々な伝説、神話が作られ、語られていたが、そうした伝説の女優として4人は生きていた。
蒲田撮影所は、蒲田駅の東側、今はボーリング場があるあたりの先にあった。
私が子供の頃は、映画館街の奥で、小さな遊園地になっていた。
蒲田に撮影所を作った理由は、松竹は新派悲劇が多く、当時蒲田や池上付近は、そうした悲劇に相応しい田園風景があったからだった。
だが、関東大震災以後周辺に工場が増え、ちょうどトーキーになったが、工場の音がうるさいので、静かな大船に引っ越したのである。

彼女たちは、前年に死んだ女優松井チエ子の死の犯人を捜すという、松井チエ子の夫で監督の浅野和之の命で東京劇場に集められ、浅野和之と助監督の古河耕史、さらに下積み役者で築地警察署の刑事役の木場勝巳によって、4人の女優の性格、生活、問題点等が一人ひとり暴かれる。
最後、犯人は木場勝巳とされ、4人は安堵して仲直りし、食事に出てゆく。
その中で、4人は自分の欠点、問題点を見つけ、互いに誤解していたことに気づき、和解する筋立てである。
と、実は・・・となり、これが教育劇であることが明かされる。

結局、井上ひさしの劇は、『日本人のヘソ』以来、教育劇だったと言うことになるのだろうか。
日本人を教育することが、彼の願いだったのだろう。
反天皇制へと導くことが彼の最終の目的だったと思うが、ここではまだ天皇制は出てこない。
木場勝巳は、蜷川幸雄の桜社以来見ているが、やはり素晴らしい役者である。
新宿サザン・シアター

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