『銀心中』(しろがねしんじゅう)は、以前横浜のジャック&ベティで見たことがあり、新藤兼人の中では良いと思っていたが、今度見て相当に良い作品ではないかと感じた。
東京で宇野重吉と乙羽信子がやっている床屋に、宇野の甥の長門裕之が修業にやって来る。
硫黄島がやられ、「沖縄で食いとめなければ」と言っているので、昭和20年頃だろう。
すると宇野に召集令状が来て、さらに長門も徴兵される。
すぐに宇野がフィリピン戦で戦死したとの報が来る。
フィリピン戦の中心は昭和19年だったので、時間順序は少しおかしい気もするが良い。
そして、8月15日に敗戦となる。
空襲で店は焼け落ち、他の店で働いている乙羽のところに、長門が復員してくる。
二人は、別々に床屋に雇われて働き、バラックの店を元のところに作る。
そして、当然のように結ばれる。
その時、死んだはずの宇野が戻って来る。
長門は、店を出るが、なんと乙羽は長門を追って清水にまで行く。
清水は、もともと乙羽の出身地で、そこの旅館で、乙羽の兄の河野秋武まで現れて、大喧嘩になり、乙羽はまた宇野のところに戻される。
6年間は、平穏にすすみ、店は若い職人を雇うなど大きく立派になっている。
そこに以前、町内会長だった下條正巳が偶然に店に来て、長門の消息を言う。
東北の温泉地で会ったというのだ。
その夜、乙羽は銀温泉こと鉛温泉に向かう。
雪の中、小さな路面電車が山を登ってゆく。
本当にあった電車で、普通の路面電車の半分くらいの薄い車体である。
温泉地で、半ば旅館を手伝いながら理髪師をやっていた。
いろいろあるが、最後は心中姿で乙羽と長門は早朝に発見される。
戦争直後に東宝で作られた山本薩夫・亀井文夫共同監督の『戦争と平和』でも描かれた、死んだはずの夫が戻って来た悲劇だが、別の見方をすれば、歌舞伎の『娘道成寺』でもある女が男を執念で追いかけてくる話でもある。
乙羽は、女性の情念と言ったものを感じさせない女優だが、むしろそこが意義深い気もする。
この作品で多分生きているのは、監督新藤兼人の他、戦争直後の床屋の椅子に座り待っている客の宍戸錠くらいだろう。
最後、温泉地で長門とできている女優は誰かと思い、調べると小田切みきだった。
と昨日書いたが、一緒に見たN氏のご指摘で、再度調べると、なんと乙羽信子の二役だった。
乙羽の二役だとはあまり見えないように撮影されていたと思うが。
神保町シアター