長い間、いろいろな映画を見てきたが、これほど展開がよく分からない映画も珍しい。
市川崑監督、石坂浩二主演の金田一耕助シリーズも4作目で、元旅芸人の三木のり平と草笛光子夫妻をはじめ、田舎駐在警官の伴淳三郎、さらにいつもの加藤武の「あっ、分かった!」のルーティン・ギャグなどは面白いが、全体としての話がよくつかめない。
さらに、高峰三枝子、岸恵子、司葉子と歴代の犯人役が出てくるので、最後まで犯人の目星がつかない。
主人公は、これがデビュー作の中井貴惠で、彼女をめぐる男たちが次々に死ぬので、中井貴惠を「女王蜂」と言うが、彼女は女王蜂というには柄が弱い。
むしろ、堂々たる貫禄の高峰三枝子が、本当の女王蜂のように画面全体を支配している。
なぜ話がよくわからないのかと思い、市川崑の『市川崑の映画たち』を読んでみると、それもそのはず、市川崑自身が、横溝正史の原作がよくわからなかったとのこと。
その上、東宝での次回作『火の鳥』のシナリオの準備で忙しく、相当の部分を協力監督の松林宗惠に撮ってもらったのだそうだ。
だから、部分的には画面やカッティングは面白いところもあるが、全体の通り方がよく分からないのだろう。
1978年と随分と昔の映画で、亡くなられた武内享などの脇役が出ている。
このシリーズで一番良い出来は、やはり二作目の映画『悪魔の手毬唄』だと私は思う。
日本映画専門チャンネル
コメント
「女王蜂」
巨匠とか鬼才とか神様とかいわれていても、私が評価しない映画人としては、新藤兼人とともにこの人が筆頭です。往年の大映の技術の大家もくそみそに言っていました。奥さんの和田夏十が優れたシナリオライターで、その力で上がってきただけの何も無い人というのが評価でした。その人が最も尊敬していたのは溝口健二!
もちろん小津安二郎も尊敬していました。そして渡辺邦男!青二才だった私を対等に相手にして話をしてくれました。懐かしい思い出です。「女王蜂」については、当時仕事で行った有楽町のプレイガイドで、大学生と思しき青二才が映画の券くださいとやってきて、店員嬢がどの映画ですかと訊いたところ、ジョウオウバエくださいと言ったので、一瞬店員嬢と私とそこにいた中年の男性客が顔を見合わせて絶句しました。男性客が、青二才にあんたそれ小学校5年の漢字だよといやみを言い、後姿を見送って今はバカでも金つみゃ大学入れるからと言ってました。そのレベルなんですよね、この映画も。
Unknown
新藤兼人については、脚本家としてはすごいが、監督作品で良いと思ったものはほとんどありません。『銀心中』位かな良かったのは。
市川崑は、変な撮り方が多く辟易としますが、中では『炎上』『悪魔の手毬唄』、特に『細雪』は大変良かったと思っています。
いずれにしても、渡辺邦男の再評価は賛成です。マキノ雅弘などは、過大評価されすぎていると思います。