女優の森光子が亡くなられた、92歳。
彼女は、『放浪記』の大ヒットの大女優と言われていて、それはその通りだが、彼女は、いわゆるバラ・ドルの元祖だったのではないかと思う。
最初の1962年のNHK紅白歌合戦の司会をやったとき、当時人気番組『ジェスチャー・ゲーム』の柳家金語楼が途中の応援に出てきて、ツイストを踊った。
相手の水の江滝子が金語楼に質問すると彼は
「まだ若者ですから」と強がりを言った。
すると紅組司会の森光子が
「若さが息切れしている!」と言い放った。
実に見事な台詞だったが、こうした当意即妙のやりとりは、彼女の芸歴にあると思う。
彼女は、サイレント時代から関西の映画界にいて、特に京都新興キネマでは、娘役のスターだった。
このとき、助監督の森一生が、彼女にプロポーズして断られた話は有名だが、そのぐらいのスターだった。
当時の彼女が見られる作品に映画『お伊勢参り』があるが、ここにはミス・ワカナ・玉松一郎、ラッキー・セブン、伴淳三郎らの新興芸能部の喜劇人が出ている。
このように、森光子は、若い頃から喜劇人、特に天才漫才師ミス・ワカナと親密な交流があり、それはワカナ役を演じた劇の『おもろい女』にもなった。
これが、森光子の台詞の上手さ、当意即妙の掛け合いと共に時として見せる彼女の愛嬌になったのではないかと思う。
そうしたことが、晩年に至るまで、ジャニーズ事務所の連中との交流に至る彼女の若さに繋がったのではないかと思う。
戦後の二度の失敗に終わった結婚と言い、彼女ほど有為転変のあった女優も珍しいが、高齢化とお笑いの時代になったから、晩年になり売れたとも言える。
ご冥福をお祈りしたい。