前から、朝比奈愛子(雪村いづみの妹で、ロカビリー歌手として結構人気があり、舞台、テレビ、映画にも出ていたが)、最近まったく姿を見ないがどうしているのか気になっていて、ネットで検索すると、この小説を書いていることを知った。
小説と言っても、ほとんどが彼女と姉雪村いずみのことで、「ああそうだったのか」と思うことが多々あった。
彼女たちの父朝比奈愛三は、戦前にハワイアンバンドのカルア・カマアイナスでギターを弾いていたという人だった。
このバンドは三井財閥の御曹司朝吹英一が友人たちと作ったものであり、朝比奈愛三氏も上流の方だったのだろう。
彼は戦後は語学力を生かして米軍関係の仕事についていたが、突然自殺してしまう。
原因は、彼の美しい妻と米人の上司との仲を疑い、その煩悶の果てだったようだ。
そして、長女が雪村いずみとして歌手デビューし人気を得て、美空ひばり、江利チエミとの3人娘として大人気になる。
当時、私はまだ小学生だったが、3人娘の中では、雪村いずみが一番好きだった。
理由は、多分最も垢抜けていて、西欧的な雰囲気を持っていたからだろう。
また、当時は気がつかなかったが、彼女は家庭の事情から急遽歌手になったもので、そうした素人らしさに好ましい感情を持っていたのかもしれない。
現在聞くと、言うまでもなく美空ひばりがジャズを歌っても圧倒的に上手く、ついで父がジャズメンだった江利チエミで、残念ながら雪村いずみは最後になってしまうが。
長女いづみの成功につられて長男も歌手になるが大して成功せず、次女も朝比奈愛子としてロカビリー歌手デビューする。
彼女は結構テレビに出ていて、先日今井正の映画『キクとイサム』にも出ていて不思議な気がしたが、これは彼女が水谷良重(二代目水谷八重子)らと調布の中央映画スタジオで遊んでいた。
そこでは、映画も撮影していて、今井監督が「あの子が良い」としてキャスティングされたのだそうだ。
だが、彼女は姉に比べて常に自分は劣っているという感情を捨てられず、歌手を諦めることになる。
そしてその後、彼女はどうしているのか、雪村いずみの付人として働いているようだ。だが、実際は別にベテラン女性がいるので、ほんとんど愛子にはすることがない。
だが、そうした人間を雪村は、朝比奈家の長女として庇護するのだそうだ。
彼女と、年下のアメリカ人ジャック・セラーとの関係もそうで、雪村のアメリカ巡業の時の学生アルバイトとして知合い、婚約して日本のマスコミで大騒ぎになり、結局はなんとか結婚したが、彼には勿論日本での仕事はなかった。
悪く言えば、彼女のヒモごときになってしまい、最後は米国から両親まで家に来て居候するようになる。
その時、彼女はこう言ったという。
「彼が自立して両親を扶養する機会を奪ったのは私なのだから、私がみんなの面倒を見るのは当然でしょう」
ジャック・セラーとは結局離婚するが、1本だけ彼が出ている映画がある。
日活の石原裕次郎主演の『零戦黒雲一家』である。
ここでは、敵対する戦闘機のパイロットで、なぜ出ているか不思議だが、この作品には永六輔がギャグ・ライターとして参加しているので、その関係だろう。