1954年6月、『国定忠治』と共に、制作再開した日活の第一作の現代劇である。
大林清原作のNHKのラジオ番組の映画化であり、明らかに当時大ヒットしていた『君の名は』の線を目指していたものだと思う。
法学部の学生で弁護士にもなる小林桂樹は、ジャズピアニストで、銀座のバーで弾いている。
兄伊豆肇の結婚式が行われるというので、実家に帰郷する。
「水戸から水郡線で3時間も掛かる田舎」だそうで、加波山の麓あたりだろう。
だが、伊豆肇の相手の宮城野由美子は、実は小林の幼馴染の恋仲の女性だった。
宮城野は、宝塚から松竹に入り時代劇に出ていたが、この頃は現代劇にも出ていた。
ルックスは、阿川佐和子をもっときれいにしてような女性で、美人ではないが親しみやすい感じである。
なぜ、小林ではなく、伊豆肇と結婚することになったのかは説明されていないが、多分宮城野の家の問題だろう。
彼女の兄は伊沢一郎で、医者、その友人に松竹の二枚目宇佐美淳也が特別出演で出ている。
小林は無事弁護士になるが、すぐには仕事がないので、清水一郎が率いるイエロー・スターズに参加し、どさり廻公演で九州に行く。
当初、伊豆は新規の事業に燃えていて、製材所に新機械を導入し、酪農に手を出すが失敗する。
また、寂れて事業のない地方を興隆させようと観光事業を起こそうという連中に煽てられて観光協会の理事長にされて財産を食い物にされる。
次第に生活が乱れて、水戸の芸者に金を貢ぎ、家は傾き始める。
ついに、宮城野は家を出て東京に行く。
いろいろと宮城野に言い寄ってくる金子信夫のような男もいるが、最後彼女は、伊豆との関係をはっきりさせるために家に戻る。
すると公演から戻った小林も実家に宮城野を迎えに行く途中で、二人は偶然に会い、ひしと抱き合う。
「かくて夢あり 第一部 終わり」だが、この次に二部は作られなかった。
もちろん、ヒットしなかったからだろう。
理由は、小林と宮城野が、岸恵子と佐田啓二のような美男美女ではなかったからである。
さらに、『君の名は』では、岸の夫が喜多川雄二で、その妹、つまり小姑の市川春代が上手くて、岸を苛めるのでドラマが盛り上がる。
だが、ここでは悪役は伊豆肇一人で、しかも天性の悪というのではなく、運悪く事業に失敗したために宮城野にも辛く当たるので、自然だが、メロドラマとしてはドラマチックにはならない。
この辺は、松竹が実は、新派的なセンスの会社だったことを表しているのだろう。
小林桂樹は、この頃は藤本プロダクションで、監督の千葉泰樹も同じ、小林に手を出す狂言回し的な役で島崎雪子が出ているが、これも藤本プロである。
当時は、すでに神代辰巳と結婚していたはずだが。
チャンネルNECO