日活の監督だった野村孝が死去された、89歳。
大学時代から一番好きだった監督が野村孝だった。
この人は、日本映画史上では、宍戸錠が絶賛する『拳銃は俺のパスポート』のアクション映画の名手との評があるが、むしろ抒情性が強いと思う。佐藤利明さんのお話では、『拳銃は俺のパスポート』のアクション・シーンの多くは、チーフ助監督だった長谷部安春のものだったそうで、野村監督の本質は抒情性にあったと思う。また、石原裕次郎のムード・アクション映画の嚆矢『夜霧のブルース』のような演劇的な構成の作品もあった。作品歴は、以下のとおりである。
- 1957.09.03 青春の冒険 日活 … 助監督
- 1958.02.26 春泥尼 日活 … 助監督
- 1958.08.12 風速40米 日活 … 助監督
- 1958.10.29 嵐の中を突っ走れ 日活 … 助監督
- 1959.04.22 二連銃の鉄 日活 … 助監督
- 1959.07.05 爆薬に火をつけろ 日活 … 助監督
- 1960.05.11 特捜班5号 日活
- 1960.07.20 爆破命令 日活
- 1960.09.14 摩天楼の男 日活
- 1960.12.07 都会の空の用心棒 日活
- 1961.04.01 早射ち野郎 日活
- 1961.06.18 都会の空の非常線 日活
- 1961.09.23 大森林に向って立つ 日活
- 1961.12.10 黒い傷あとのブルース 日活
- 1962.05.01 激流に生きる男 日活
- 1962.07.15 遙かなる国の歌 日活
- 1962.09.09 あすの花嫁 日活
- 1963.01.11 いつでも夢を 日活
- 1963.06.30 夜霧のブルース 日活
- 1964.03.25 無頼無法の徒 さぶ 日活
- 1965.04.29 未成年 続・キューポラのある街 日活
- 1965.10.01 血と海 日活
- 1966.06.15 放浪のうた 日活
- 1966.09.07 殺るかやられるか 日活
- 1966.11.20 暗黒航路 日活
- 1967.02.04 拳銃は俺のパスポート 日活
- 1967.05.03 燃える雲 日活
- 1968.08.14 鮮血の賭場 日活
- 1969.05.14 博徒百人 日活
- 1969.09.13 博徒百人 仁侠道 日活
- 1969.10.18 昭和やくざ系図 長崎の顔 日活
- 1970.06.10 鮮血の記録 日活
- 1970.12.05 ネオン警察 女は夜の匂い 日活
- 1971.07.31 逆縁三つ盃 日活
- 1976.05.22 地上最強のカラテ 三協映画
- 1977.05.21 雨のめぐり逢い 三協映画=松竹
中で注目されるのは、『無頼無法の徒・さぶ』である。勿論、山本周五郎の『さぶ』で、旧日活としては、時代劇の最後になる作品だと思う。
1954年に製作再開した日活は、戦前の日活の再現の意味もあり、第一作が滝澤英輔の『国定忠治』であるように、石原裕次郎が出てくるまでの初期は、時代劇を多く作っていた。川島雄三の『幕末太陽伝』もその流れの一つでもあるのだ。
この野村孝監督の『さぶ』は、浅丘ルリ子、小林旭、長門裕之の共演で、特に小林旭の演技の上手さが良くわかる作品である。
見ている人は、そう多くはないと思うので、『拳銃は俺のパスポート』の前作で、これも非常に優れていて隠れた傑作の、芦川いずみが異常に美しい『殺るかやられるか』と共に是非上映してほしい作品の一つである。
知らざれる名匠のご冥福を心からお祈りしたい。
コメント
野村孝監督作品はそれほど見ていませんが、日活作品では『夜霧のブルース 』が最高作だと思います。
これは野村監督の「叙情性」が全面に出た日活ムード・アクションの金字塔的作品と言ってもよく、伏線に伏線が張られたシナリオが実に見事、この時期凡・駄作が続く裕次郎の作品群の中でも屈指の出来映えを示しています(世評高い『拳銃は俺のパスポート』は小生はあまり評価していません)。
「さすらい」様のご指摘通り、この監督の持ち味は「叙情性」なのですね。
この「叙情性」が一番鮮明になっているのは遺作『雨のめぐり逢い』(松竹= 三協映画)
で、野村孝の「叙情性」極めつきの傑品だと信じています。
「日活の監督で一番好きだったのが野村孝だった」(2017/8/14)と言い切っていらしゃるので、「さすらい」様はこの映画をご覧になっているという前提で話しを進めていきます。
有名なフランス映画の『雨のしのび逢い』をパクったようなふざけたタイトルですし、この頃は『ポルノ帝王』など東映でエロチック喜劇ばかり出演、またテレビでもエッチなことばかり放言していた山城新伍(with竹下景子)主演となると、ファンも批評家も誰もこの映画をまともに相手してくれなかったのは当然で(しかも三協映画ですしね)、この映画を実際に見ている人は少ないと思います。
しかし、山城(タクシーの運転手役)のシリアスな演技が光った『雨のめぐり逢い』は野村の「叙情的」演出と菊島隆三の天才的シナリオで、珠玉のような名作になっています。
この作品こそ野村孝の最良作だと小生は確信していますし、インターネットでも一件だけ「野村孝の最高作の一つだ」と絶賛している人がいました(嬉しい!)。
野村孝監督好みの「さすらい」様もまた機会がありましたら、どこかでこの映画を紹介してください。
勿論、見ています。蒲田の映画館で鈴木清順の『悲愁物語』と2本立てでした。
良い映画だったと思いましたが、最後に目の手術をして目が見えるようになった竹下景子が、見ていない山城新伍と会うというものでした。
これは赤木圭一郎の遺作『紅の拳銃』のラストシーンのパクリではないかと思い、それが理由で最高作には思えませんでした。因みに、『紅の拳銃』の脚本は松浦健郎となっていますが、誰か優秀な弟子が書いたのだと思います。
ラストのパクリの件、そう言えば確かにそうですね。気がつきませんでした。
『紅の拳銃』では赤木圭一郎と笹森礼子の二人がラストで同じ列車に乗っているのは不自然、また目が見えるようになった笹森が「ひょっとしたら、あの人かしら」などと言うのは唐突すぎると思いましたが。
とにかく勉強になりました。
これからも色々とご教示下さい。有り難うございました。