井上遥

私が直接に知っていた人間で、恐らく一番有名だったのは、２００３年に５６歳でなくなった声優の井上遥こと、漆川由美である。
『機動戦士ガンダム』の女主人公役であり、新聞に訃報がでた。
そのとき、「我々の中で新聞に訃報が出るのは、恐らく彼女が最初で最後だろう」と言い合った。

私が、学生劇団に入ったとき、１年上の２年生。
中学生のような童顔だったが、「高校時代から同棲している男がいる」との噂だった。
演技は達者、ルックスも悪くないので、準主役級の女優だったが、かなり気まぐれで稽古にきちんと来ないなど、扱い難い「女王様」だったようだ。
卒業後は、早稲田小劇場にもいたが、元々商業的成功を目論んでいたので、すぐに声優になった。大学時代にTBSの「ヤング７２０」に出ていたこともあった。

私が、彼女が大変有名な人であることを知ったのは、ある職場でアルバイトの子から、「早稲田大学で演劇なら、井上遥さんを知っているでしょう」と聞かれたときで、若い世代で有名なのにとても驚いた。

彼女に関し、もう一面白いことは、私が彼女の高校生時代の芝居を見ていることだ。
彼女は、東京の都立八潮高校で、そこには私の中学の同級生がいて、彼女も演劇部にいたので、文化祭公演を見に行ったら井上遥が出ていたのである。チェーホフの芝居だったと思う。
全く記憶にないのだが、その直後の私の感想は「彼女、つまり漆川由美が一番上手い」と誉めていたそうだ。

井上遥の大変若かった死を悼む次第である。