『唐版・風の又三郎』

1974年に初演された、この劇を見ている。4月27日で、夢の島での公演だった。地下鉄の東陽町駅から随分と歩き、橋を渡った袂に、赤テントがあり、満員の中で見て、日頃冷血人間と言われている私でも興奮して感激したほどのできだった。

李礼仙と根津甚八が主役で、小林薫も脇役で出ていたと思う。たぶん、この頃が唐十郎と状況劇場のピークだったと思う。蜷川幸雄も中野良子を連れてきてみて、渥美清も泣いたとの噂だった。

話は、宮沢賢治の『風の又三郎』の世界を借りたものだが、実際に起きた陸上自衛隊兵の、飛行機乗り逃げ事件を基にしている。そこにギリシャ悲劇のオルフェの悲劇、さらに1937年に片翼を失いながら中国での空中戦で勝利し、「空の荒鷲」と称された少年航空兵の神話も重ねられていて、劇がおこる場は、代々木の帝国探偵社である。

西田佐知子の『エリカの花の咲くころ』がなんども流されるが、この曲を知っている者も、50代以上だろう。

自衛隊員の織部は窪田正孝、宇都宮のキャバレーの女エリカは柚希礼音で、二人とも精一杯演じているのは理解できる。だが、初演の感動を知っている身には、もちろんいまいちである。

帝国探偵社の六平直政や、夜の男の北村有起哉が、以前のアングラ劇の雰囲気を出そうと努力していた。

隣席にいた礼音ファンの女性が「分からない」とつぶやくので、

「筋は誰にも分かりません、詩的世界に感動すればよいのです」とつい親切心を出してしまう。

プログラムを読むと、俳優が異口同音に「脚本を読んで理解できなかった」と正直に言っているのだから、われわれに理解できるはずはない。

ただ、都会の底辺で、必然的にすれ違ってしまう、少年、少女の恋の悲劇を感じればよいのである。

演出の金守珍は、唐十郎の劇の最大の眼目である、「空中に向かって台詞を吐く」のをやらせなかったのは、どういうわけなのだろうか、私は疑問に思った。

この劇の音楽の安保良夫の全曲のカセットを持っていて、家に戻って聴こうと思ったが、娘に貸したままで家にはないのだった。

シアターコクーン

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