女中映画

かつて日本の上流家庭には、女中がいたように、日本映画には「女中映画」というジャンルがあった。
『台所太平記』は、その最後に属する作品だが、左幸子主演の日活初期の名画に、そのものずばり『女中っ子』がある。
これは、後に森昌子主演、西河克己監督でリメイクされたが、女中というのは差別語だとのことで、題名が『どんぐりっ子』に変えられた。

女中はしばしば家長のお手つきになったもので、左翼映画人家城巳代治の『異母兄弟』は、女中から妾になった母親田中絹代と頑迷な軍人三国連太郎との間に生まれた中村賀津夫が、正妻の子の兄たちに無法な差別を受ける作品だが、これも女中映画の典型的の一つである。

ポルノ映画では、田中登の大傑作『実録・阿部定』は、大島渚の『愛のコリーダ』よりも上と言う評価だが、この主演の阿部定は、勿論女中であり、ここには様々な下層の女性が出てくるが、多くは女中である。

言ってみれば、女性の職業が少なかった戦前で、女中は数少ない女性の職業の一つであり、そこが作品を多くしている理由だろう。
言うまでもなく、女中とは江戸時代には、「お女中」などと呼び、特に蔑称ではなかった。
当初は蔑称ではなかった呼称がいつの間にか、蔑称になるのはよくあることで、貴様などというのも、その一例だろう。
日本語の変遷も実に面白い。

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