『らくだ』

別役実の新作は、前作『山猫理髪店』と同じ山下悟の演出、主演は勿論大滝秀治。
この作品の底には、明治維新以来の無血革命である2000年8月の衆議院選挙の野党勝利の民衆革命がある。

長屋の大家の大滝が、『寝床』のように落語を一席話そうとすると、長屋の連中が出てきて、家財道具を運び出し、大滝の着物もはいでしまう。
遊び人の息子に長屋の証文を預けたところ、寛兵衛という男が「博打の方に取ったので、長屋を壊すから出て行け」と言うのだ。
かつての地上げを思わせる。

家を失った大滝は、屑屋になって町を「屑屋お払いぃー」と流して歩く。
例によって、電柱が出てくる町では、お陰参りの連中が練り歩いている。
そして、長屋の嫌われ者「らくだ」が、ふぐの毒に当たって死ぬ。
らくだの死体を担いで、長屋を騙し取った勘兵衛夫婦への「かんかん踊り」がある。

最後、大滝は自分の死を悟り、「俺が死んだ後で、死体が踊れば、空からお札が降り、ええじゃないかが始まる」という。
そして、死ぬ。
この後、どうするのかと思っていたが、死んだ大滝がかんかん踊りを踊りだすのだ。すごい演技だった。大袈裟に言えば、日本演劇史に残る演技だったろう。
するとお陰参りの連中が現れ、ええじゃないか、になる。
これは、別役の中に、世界の根本的な変革の志があることを示すものだ。

大滝が死ぬ間際、酒を飲んで荒れる件は、歌舞伎の『魚屋宗五郎』を思わせた。
この難役は、大滝以外に出来る役者がいるかな、と思う名演だった。
坂東三津五郎なら出来るだろうが。
紀伊国屋サザンシアター
民芸は、役者が上手くて、行儀が良いので見ていて気分が良い。

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