蜷川幸雄が死んだ、80歳。
演劇での活躍は別として、彼がいた劇団青俳のプロデューサーだった本田延三郎は、東映東京の製作もやっていたので、彼は東映作品にも出ている。今井正の『純愛物語』では、主人公江原真二郎が働く工場の工員として出ている。
左翼独立プロ、家城巳代治の『胸より胸へ』が映画デビューだそうだが、一番大きな役は、篠田正浩監督の映画『暗殺』の丹波哲郎の清河八郎の手下で、彼らが大きな成果を上げたときの祇園での宴席で、
「先生、謡います・・・」と言って詩を吟じて踊る役だろう。
彼は、映画から多くのものを得ていて、浅丘ルリ子主演の『にごり江』は明らかに今井正の名作で、オムニバス・ドラマの映画『にごりえ』からヒントを得たものだと思う。
映画の監督作品もあるが、「四谷怪談」の『魔性の夏』や『青い炎』もやや中途半端で、映画監督としては娘の蜷川実花の方が良かったと思う。
彼の監督作品には帆船日本丸の青年等を描いた『海よ、お前は』があり、セミ・ドキュメンタリーでなかなか面白いのだが、上映されないのが残念で、この際どこかで上映してほしいと思う。
最近では、酸素吸入で車いす姿だったとのことで、そう長くはないと思っていたが、「意外と早かったな」という感じだ。
彼の業績はいろいろあるが、その一つが、多くの訃報の見出しが「蜷川幸雄さん死去」とあるように、「大先生」にならなかったことは偉いと思う。
私のような無名の者も、2回手紙を直接もらったことがある。
1回目は、最初の批評集『いじわる批評、これでもかっ!』を送った時で、激賞された。
また、ある芝居を見に行った時、私の前の席にいたことがあり、劇の感想を送った。
このときは、私が脳こうそくで倒れた直後で、階段席を苦労して上がったのだが、
「手を出そうかな」と思っていましたが・・とご返事をくれた。
世界のニナガワのご冥福をお祈りする。
肺炎とのことだが、多分肺がんだろう。
井上ひさし、つかこうへい、斉藤憐、そして蜷川幸雄と日本の演劇界は、タバコで多くの才能を失ってきた。
禁煙令を出す必要があるな。