『かあちゃんしぐのいやだ』

今回の新文芸座のにんじんくらぶ特集で、一番見たかったのが、この1961年の川津義郎監督作品。
福井県武生市に住む、有馬稲子一家の貧乏話。
夫の下元勉は、一応簿記を仕事にしているらしいが病弱で、二人の小学生の息子の一家は極貧のレベル。
水道はなく、手押し式ポンプの井戸、有馬は川で洗濯し、子どもはご飯に醤油を掛けて食べている。テレビはおろか、ラジオすらない。唯一の文明の利器時計も古くて止まっている。
ついに下元は、多分結核だろう、入院し一家は生活保護になる。
最後、下元は死ぬが、この極貧生活を書いた作文が全国コンクールで優勝し、その賞状、記念品を父の死の床に供える。賞状等を授与するのは、実際の北福井県知事の特別出演。その他、藤山寛美も、計算が下手で有馬に算盤を習いに来る大家で特別出演で、大いに笑った。
有馬稲子との3人家族になったが、彼らは健気に生きていく。

日本映画には、作文・綴り方映画のジャンルがある。
山本嘉次郎監督、高峰秀子主演の1938年の名作『綴方教室』以来、戦後も小学生の作文を基に水木洋子がシナリオを書いた成瀬巳喜男の1952年の『おかあさん』、やはり作文世界大会で優勝した作品を基にした、1958年の『つづり方兄妹』がある。
これは、関西のやはり貧困家庭を描くもので、二木てるみ、頭師孝雄と言う、東西の名子役対決の久松静児監督作品だった。
これや、今回の川津義郎作品あたりが、作文映画の終わりである。
日本の経済の高度成長、貧困の終了と共に終わったのである。

だが、現在もテレビでは頻繁に同工の番組が放映されている。
「元ヤンキー母親の大家族」と言った類の番組であり、そこでも大家族故の貧しさと健気さ、元気さが描かれる。
日本人は、よほど貧困話と健気さが好きなのだろう。

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