『人間の条件 第3部・4部』

3部と4部は、本来徴兵免除だった梶が陸軍に入れられ、内務班での過酷で非人間的な扱いとの対決になる。
筋はよく分かっていたが、この映画版の3・4部は見ていないことが分かった。
見たような気がしていたのは、多分テレビで見たのだろう。
テレビ版は、大映テレビ室製作で、主人公の梶は加藤剛、三千子は後に田宮二郎と結婚した藤由紀子。本格的テレビ映画の走りで、これもヒット作だった。
悪役で出た小松方正の回想によれば、どこにロケで行っても加藤剛は大人気だったそうだ。
いずれにしても、戦争体制と戦う「正義の男」が理想像とされていた時代なのである。

作品の場所はどこか明示されていないが、ソ満国境近くの部隊。
新兵の梶は、古参兵に徹底的に苛め抜かれるが、一番やられるのは軟弱な田中邦衛である。悪辣な古兵は、南道郎で、この作品以降、彼は悪い兵隊専門の役者になり、自衛隊友の会会員としても活躍することになる。
前に「南道郎と佐藤慶が仲代をいじめるだろう」と書いたが、佐藤慶はここでは悪役ではなく、むしろ善人で、兄が元共産党だったことから、南らから適視されている役。

仲代と佐藤は、便所で脱走について話し、仲代が「逃げるべき場所があるか」と聞かれ、
佐藤は「ここよりは、人間的に生きられるところ」とソ連を暗示し、彼はソ連に逃亡しようとして殺される。
これが公開された1960年は、まだソ連等の社会主義が、「理想郷」と信じられていた時代である。大島渚によれば、1950年代当時、松竹大船でソ連の崩壊を予期していたのは、彼の師匠で大インテリの大庭秀雄のみだったそうだ。
この佐藤慶の台詞を見ても、監督の小林正樹も、シナリオの松山善三も社会主義ソ連を「理想郷」とみなしていたことが分かり、今見ると痛々しいが、それが時代と言うものである。
この後、第4部のソ連軍の戦車は、勿論自衛隊のもので、この「反戦映画」に自衛隊が協力していたのだから、今のネット右翼はどう思うのだろうか。

第3部では、病院の看護婦で岩崎加根子が出てくるが、美人である。
私事で恐縮だが、私はこの頃の岩崎加根子の実物を見たことがあり、とてもきれいだったと記憶している。姉が入っていた劇団俳優座後援会の運動会で、である。
当日のイベントの司会は、横森久で、会場はお台場で竹芝桟橋から船で行った。

第4部は、さらに前線に行き、会社の同僚だった将校の佐田啓二と再会し、ソ連が参戦してきて全滅するまでを描く。
ここでの悪役は千秋実と井上昭文。
おかしいのは藤田進がロートル兵の一人で、古参兵からさんざ痛めつけられること。
戦前、戦中は、軍人役者として高級軍人を演じていた藤田が哀れな兵隊を演じるのは大変珍しい。
第3部には、岩崎の他にも、田中邦衛の妻として倉田マユミが出ていたが、第4部には、一人も女優が出ていないはずだ。
ともかく、1・2部の大成功で、松竹も本格的に力を入れたらしく、大ロケーション撮影は、本当にすごい。
日本映画専門チャンネル

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