『美女と怪竜・鳴神』

吉村公三郎特集で見たかったものの一つで、これはとても面白かった。
話は、歌舞伎十八番『鳴神』と『毛抜』を合せたもの。

脚本は勿論、新藤兼人で、前進座の協力で東映京都で作ったので、役者は主人公の鳴神上人は河原崎長十郎、色仕掛けで上人を惑わせ法力を失わせる絶世の美女絶間姫は乙羽信子、その女従者に山岸しず江、文屋豊秀に東千代介と、前進座、近代映協、東映の混合。
スタッフも、東映と近代映協の他、撮影は独立の名カメラマン宮島義勇である。

古代、旱魃で農民が苦しみ、御所に押掛けて来る。
宮中での鳩首会議の結果、天皇に子を授かる祈願を成就させたが、代わりの約束を守られなかった鳴神上人が、竜神を滝に封じ込めたからだとなる。
学者安倍清明の意見を得て、その法力を喪失させるため、上人の元に美女の絶間姫を行かせる。
姫に秘策を授ける従者が山岸で、岩下志麻の母親であり、声と表情がよく似ている。
乙羽も、大変可愛く、ときどき加賀まり子のような表情になる。

深山に行くと、鳴神は、滝壷脇で竜神を祈りで水底に竜神を封じ込めている。
黒運坊が殿山泰治で、これは実にこっけいで上手い。
姫の従者の日高澄子のストリップまがいの踊り等もあり、次第に上人の気を引いた姫は、最後は鳴神に酒を飲ませ、竜神を封じ込めたシメ縄を切る。
竜神は、水底から天に昇り、たちまち雨を呼ぶ。
都にも大雨が降り、歓喜する都人。

この作品が大変面白かったのは、いつもは派手なやりすぎ演出・脚本が多い吉村公三郎・新藤兼人コンビだが、ここでは古代の宮中の話と言うことで、演出が抑制されて上品な笑いになっていたからだ。
「過ぎたるは及ばざるが如し」の逆の例とでも言うべきだろうか。
フィルム・センター

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