『世界を賭ける恋』

1959年、日活製作再開5周年記念で作られた海外ロケ映画、原作は武者小路実篤の『愛と死』で、主演は勿論石原裕次郎、共演は初めての浅丘ルリ子である。

この『愛と死』は、松竹でも作られたことがあり、この時は栗原小巻、新克利、横内正で、監督は中村登、よく憶えていないが、三角関係の話だったように思うが、これは二人の純愛の映画で、セックスはおろかキスもしない。

世界と言っているが、実際に出てくるのは、ストックホルム、コペンハーゲン、パリくらいで羊頭狗肉だが、当時はこれでも海外ロケーション映画だったのだろう。

大学の助教授で建築家の石原裕次郎は、建築評論家葉山良二の妹浅丘ルリ子と出会い、一目で二人は愛し合ってしまう。

裕次郎の亡くなった父は外交官で、母は滝花久子、兄夫婦は永井智雄と奈良岡朋子、一方葉山良二の妻は南田洋子で、両家とも上流の家柄であり、松山宗の美術が良い。

裕次郎が教えている大学は、実際に立教大学構内でロケされているようだが、ここは今もほとんど変っていない上品な雰囲気である。

裕次郎とルリ子の関係が大変自然に上手く描かれているが、監督は「順取りの滝沢」で有名な滝沢英輔である。

滝沢英輔は、サイレントのマキノ映画から東宝、そして戦後の製作再開で日活に呼ばれた時代劇のベテラン。

西河克己によれば、当初は伊藤大輔が来ると経営者が言っていたが、実際は滝沢英輔で「何だあ」と思ったそうだが、戦後の作品で見てみれば、サイレント時代の巨匠伊藤大輔も大したことはなく、結果として滝沢の抒情的で、穏健な作風が日活に残したものは大きかったと私は思っている。

抒情的な作風で、浅丘ルリ子と小林旭の『絶唱』や、月丘夢路主演の『高野聖』の映画化『白夜の妖女』も撮った名匠である。

順取りとは、映画の撮影で、シナリオ通りに順番に撮って行くやり方で、マキノ雅弘が自慢する「中抜き」等を一切しない撮影方法である。

もちろん、非効率的だが、役者の感情は自然に発露されるので、見ていて不思議な力がある。

ここでも裕次郎とルリ子の愛の進行は極めて好ましく見え、こんなに幸福な二人はないだろうと思える。

だが、裕次郎がローマ・ビエンナーレのために欧州に行っている最中に、ルリ子は粟粒結核で急に死んでしまう。

裕次郎は、彼女の墓を立派にデザインすると誓って終わる。

ルリ子は、このとき19歳だが、実に可愛く、また台詞が上品である。

石原裕次郎も実に爽やかな若者を演じている。

それに対して、今回の「暴走老人」の醜悪さはどうだろうか。

実際に、石原裕次郎はとても人間的に優れた人間で、それゆえに石原プロには、彼を慕って多くのスタッフ、キャストが集まった。

だが、石原慎太郎は、中川一郎の自殺によって、青嵐会を継承したが、最後は誰も慎太郎に付いて行かず、一人になってしまい、ついには議員辞職することになる。

フィルムセンター

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