11月11日から17日まで、ユナイテッドシネマ豊洲で第4回新人監督映画祭が行われ、多くの参加者、入場者で賑わった。
私は、12日に、『映画は都市の写真帳』を日本映画監督新人協会会長の大高正大氏とやり、東京、横浜、京都、大阪を舞台にした映画の一部を上映していろいろと話した。
さらに、約200本あったコンペティション部門の作品の内、最終選考に残った40作品を見て、脚本家徳永富彦さん、ヴィヴィアン佐藤さん、木下半太さん、大崎徹哉さんらと共に各作品を審査し、短編、中編、長編にそれぞれグランプリ、準グランプリ作品を選んだ。
(短編)
グランプリ wind chime 監督緑茶麻悠 主演菅井知美 緑茶麻悠
準グランプリ フーコの婚活 宮城伸子 窪田優 勢古尚行
(中編)
グランプリ カランコエの花 中川 駿 今田美桜 石本径代
準グランプリ MY BIRD 市原俊幸 大橋一隆 服部幸子
(長編)
グランプリ Pinto 矢野瑛彦 小野寺ずる 大橋一輝
準グランプリ パラダイス・ジョージ 本村荘平 松井 功 鈴木拓真
それぞれ、個性的であり、新人監督映画祭に相応しい、従来になかった世界を持っている作品で、今年は特に水準が高かったと思う。
偶然にも、私が気に入った作品は、短編、中編、長編のいずれも、準グランプリ作品になった。中で、一番面白いと私が感じたのは、『パラダイス・ジョージ』で、主人公の元パントマイム芸人で、今はラーメン屋のアルバイトも駄目になる老年に近づいている男の悲しい日常には身につまされるものと乾いた笑いがあった。松井さんは、本格的にパントマイムを勉強したことがあるとのことで、やはり芸の力は大きいと思った。
『MY BIRD』は、珍鳥を探しているおじさん3人組の話。森でバードウオッチしていると、急に少女が現れて川に身を投げる。旅館で息を吹き返えさせると、少女は3人組の一人の精神科医の患者で愛人にされていたが、そこから逃げて・・・という具合に話は進み、最後珍鳥の声だけが残されたという皮肉。
『フーコの婚活』は、若いOLのフーコが、占い師に「5人の男と出会い、そこから選ぶ」と予言される。恋人と別れて婚活に本気になったフーコが一緒になった相手は・・・と言うもの。出だしは緩かったが次第に台詞の良さに引かれる作品で、今回は監督が脚本も兼ねていたようだが、むしろ脚本家の道を進むべきと私には思えた。
私は選ばなかったが、矢野監督の『pinto』は、実に不貞腐れているというか、敢然と見るものに戦いを挑んでくる作品で、主人公の女性の姿には普通の作品にはない迫力があった。その意味でも、新人監督映画祭の趣旨に最もふさわしい作品だったことは間違いない。
招聘作品として監督新人協会員の作品も上映された。
中では宮本ともこ監督の『もしも』が良かった。
女子大生とその周辺の若者たちの群像劇で、今の時代を描いていた。途中のアクション場面は参加スタッフのアイディアのようだが、そうしたスタッフのアイディアを上手く取り入れるのも監督の能力の一つである。
映画音楽も多数書いた作曲家の林光は、演出家には二つの対応プがあり、独裁型とオーガナイズ型と言っている。新藤兼人や増村保臓は独裁型で、千田是也や大島渚はオーガナイズ型だそうだ。これは大変に便利な分類で、結構他の監督にも応用できると思う。
また、クロージング上映の、矢口鉄太郎監督の『海にのせたガズの夢』は、熊野市に残る「ガズ祭り」を再現する若い男女や大人たちの話で、出来は素直で好感が持てた。特に主人公の女性の父親の赤井英和がとても良かった。彼の褌姿には、三島由紀夫も喜んだろうと私は想像した。その他、海の男たちの褌姿の勇壮な場面もあるので、野毛の光音座での上映を期待したい。
しかし、一番に度肝を抜かれたのは、中国のオープニング上映の『俺を救世主と呼べ』だった。
SF仕立てまがいの話が、なぜかいきなり高校の番長争いの学園ドラマになる滅茶苦茶な構成だが、妙に迫力があって最後まで見てしまった。
やはり、中国勢の力は馬鹿にできないなと思った。