『彼女と彼』

羽仁進監督の『彼女と彼』を見た。
脚本は清水邦夫との共作。主演は当時羽仁と結婚していた左幸子とインテリ役代表の岡田英次。
団地(百合丘)の近くのバタヤ部落に、岡田の大学時代の友人・伊古奈(山下菊二)がいる。
彼らは、学生時代はセツルメント活動をやっていたが、岡田は今は農林省の技師になっている。
左は、山下に同情し就職を世話させるが、山下は断り、逆に岡田がゴルフ大会で優勝したときのカップを玄関先から盗み、くず屋に売ってしまい、両者は対立する。
最後、部落は壊され、山下が面倒を見ていた盲目の少女も病院を逃げ出し、山下も行方不明になる。
ここで、描かれるのは、両者のどうにもならない対立、違和感であるが、この山下がすごい。
彼は、当時有名な画家で、演技は全くの素人で、その拙さが大変な迫力になっている。
後に、羽仁は、『初恋地獄編』や『午前中の時間割』等の独自な作品を作るが、その先駆である。
ただし、二作品の主人公が初々しい少年であるのに対して、山下はかなりむくつけきおじさんなので、作品の美しさや可愛さはなく、そこがマイナスになっている。
羽仁進の「少年愛」の兆を示す作品であろう。羽仁の少年愛は有名で、それで左も別れたのだそうだ。
森永牛乳の風船を売る男として、世界の蜷川幸雄先生が出演。
武満徹の音楽が、いい。前衛的であり、叙情的である。この音楽がなかったら、持たないだろう。
制作が岩波映画で、後に大島渚の制作をする中島正幸が入っている。
アテネフランセ文化センター。
ここは、数十年前に天井桟敷の公演で『疫病大流行』というのを見て以来だが、全く変わっていない。周囲は全く変わってしまったが。

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