麻生財閥と『蟹工船』

近年売れているらしい小林多喜二の小説の映画化、昭和28年、山村聡が主催していた現代プロダクションの作品。
脚本、監督も山村聡で、自分も楽師くずれのお尋ね者で、会社側のスパイを演じている。
群集劇なので、多数の当時の新劇系の役者が出ているが、『男はつらいよ』の初代のおいちゃん・森川信が真面目に演じているのが珍しい。
その他、河野秋武、木田三千男、山田巳之助、御橋公、森雅之などが出ている。
会社側の監督で暴力的な荒くれ男を、戦前は新劇に関係し当時は千葉で大々的に魚業をやって成功していた平田未喜三が演じている。平田の息子平田大三郎も日活のアクション・スターだった。

話が話しなので、異常に暗い映画だが、長年映画や演劇で役者をやってきた山村なので、構成は上手く出来ている。
ただ、この年は今井正の『にごりえ』など、名作が目白押しだったので、評価は高くなかったようだ。
音楽は、伊福部昭で、映画の調子にぴったりの「伊福部節」を奏でる。
撮影は、独立プロ運動の指導者でもあった宮島義勇で、さすがに重厚な画面であるが、宮島は撮影監督で実際は仲沢半次郎。
昔、このシネマ・ジャックで見たときは、フィルムの状態が最低で「ワカメ」状で、半分以上が不明だったが、今回はきちんと見られた。

併映は、今村昌平の名作『にあんちゃん』
九州佐賀の零細な炭鉱の最下層の連中の貧乏話。
こういう連中を使って麻生財閥は大きくなったのだな、と思う。
当時も今も格差社会に変わりはないが、当時は貧乏な者は、貧乏人同士助け合うという相互扶助の精神や社会的関係があったことである。
そうしたものは、今の都市化の中では全く存在しない。
そこが、麻生太郎総理大臣ならずとも苦しいところである。
近代化の宿命と言えば、それまでだが。

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