『悪の愉しさ』

シネマヴェーラの千葉泰樹特集での特集上映作品 戦時中は大映にいた千葉だが、東宝ストライキ以後に作られた藤本真澄の藤本プロに属し、各社で作品を作る。

東映作品で、脚本は『現代人』なども書いた猪俣勝人、主人公は新人の伊藤久哉で、鉄鋼会社のサラリーマンだが、総務部株式課の仕事に興味はなく、同僚の伊豆肇と川崎競輪で遊んだりする。

彼は、未亡人東郷晴子の家の離れに、妻杉葉子と結婚しているが、夫婦仲は破たんしていて、他の女に手を出すことが唯一の楽しみ。

             

会社の久我美子とは、社員旅行の夜にできてしまい、彼女が結婚した後も、仲を夫にばらすと脅して関係を重ねる。

伊藤には、幼馴染で不動産屋の女にモテモテの森雅之がいて、彼について酒場で遊んでいる。

さらに、未亡人東郷にも、手を出して落とすなど、悪の生活を楽しんでいる。

彼は、戦時中に海軍で虐待されて自尊心を喪失したことが、こうした行為の根源と説明されている。

久我の夫が使い込みをして、その穴埋めの金を久我から頼まれたことから、久我とのよりを戻すため、森雅之を殺害して金を奪う。

アリバイなどを工作していたのだが、森と伊藤が一緒に車で出かけたことを目撃した女がいて、簡単に警察に逮捕されてしまう。

そして、最後彼は取り調べ室の窓から飛び降りて自殺してしまう。

筋は非常に面白く、千葉の演出も手堅く行われているが、ここには致命的な欠陥がある。主演の伊藤久哉が本質的にまじめで、悪を喜んで行っているようには見えないことである。

もし、三国連太郎あたりが演じていたら随分と感じは違ったものになっていたのではと思う。

また、妻の杉葉子となぜ不仲なのか、これもよく理解できないところだった。

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