『海と毒薬』

熊井啓は、最初の作品『帝銀事件・死刑囚』から見ているが、あまり好きになれない監督である。ただ、この映画でも監督補佐を務めている原一男によれば、「熊井さんは非常に良い人で、皆が嫌うのがよくわからない」としているが。

話は、太平洋戦争末期に、九州大学医学部の医師らによって行われた生体解剖事件である。

だが、脚本が上手いと思うのは、なかなかそこには行かず、医学部の次期医学部長争い、結核手術の失敗の隠蔽事件、病棟の貧困な病人の悲惨な状況などをゆっくりと映画いていることで、1時間半過ぎて、やっと解剖事件になる。

主人公は、医学生で、嫌々ながら手伝うことになり、手術の途中で本当に嫌になる奥田英二である。なにも考えず、適当に物事をこなしていいるニヒリストが渡辺謙だが、実に若い。

熊井が日活出身なので、栃沢正夫のカメラ、木村威男の美術など、旧日活系で、製作も大塚和と宮川孝至。

この宮川さんは、元大映の助監督で、レッドパージ以後独立プロで助監督をずっとやっていた人で、知り合いに聞くと時には非常に零細なピンク映画に近い作品の助監督もやっていたそうだ。

セット内は日活だそうだが、かつてあった旧工業試験場が使われているが、今は新国立劇場と東京オペラハウスになっているところである。

まあ、日本人に神は存在するのか、という疑問は私に関係ないので、内容についてはどうこう言わないが、一応きちんとできた作品だろう。

松村禎三の音楽は、フランスの近代派のようで、非常に美しい。

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