『濹東綺譚』

1992年の新藤兼人の脚本、監督作品。前に何度も書いたように、私は監督としての新藤はまじめすぎて苦手なのだが、これは非常に面白かった。『濹東綺譚』は、ひいきの豊田四郎監督作品にもあるのだが、玉ノ井の女が山本富士子というミスキャストで、どうにもならないものだったに比べれば天地差がある。

だが、これは『濹東綺譚』というよりは、永井荷風の日記『断腸亭日乗』をもとにした映画なのであり、そこの身も蓋もないリアルさが面白い。

荷風が麻生に偏綺館を建てたところから始まる。

母親は杉村春子で、荷風がこれまでに二階の結婚をして破綻したことが語られる。

様々な女と永井は係るが、ほとんど交情のためであり、「男を喜ばせない女なんて意味はない!」とフェミニストが聞いたら驚愕するような台詞をのたまう。ただ、様々な女から聞いた話は彼の小説になっていて、それはノン・フィクションのようなものだとも言える。自然主義の小説も、徳田秋声などは今日でみればノンフィクションのようなものである。

永井は、毎夜銀座に出没し、享楽に耽るが、それは菊池寛のようなブルジョワ的な文士からも非難される。だが、菊池寛らの文士の本質は田舎者で、江戸っ子の荷風の粋とは相いれないものだった。

河原崎次郎の壮士が来て脅すところや、逃がしてくれた女給の宮崎淑子が強請りまがいに金をせびるところも面白い。荷風は警察を呼んで難を逃れる卑怯さ。

荷風は、小説の成功と共にもともと大変な資産があり、十分な遊蕩ができたのである。

荷風は、ある女を探すくだりで、バスに乗って荷風は隅田川を越えて玉ノ井に行き、そこでお雪・墨田ユキに出会う。

彼が何者かも全くわからない無智無学な女だが、荷風は非常に気に入る。

その店の女将が乙羽信子で、彼女の貰いっ子の青年が学徒動員されて死んでしまうところも感動的。挿入されるのは日本ニュースの「雨の壮行会」である。東條英樹は叫ぶ「天皇陛下万歳!」である。

米軍の東京大空襲で、偏綺館も玉ノ井も全焼してしまう。

戦後の荷風は浅草のストリップ小屋に出没し、ついには文化勲章を貰うが、その新聞を見ても、乙羽信子も墨田ゆきも、彼が荷風先生だとは分からない。

だが、この戦後の永井荷風がよぼよぼの爺姿というのは明らかに違う。彼は長身でカッコよく歩いていたのだ。

一人の孤独な人生を意識して選んだ永井荷風先生はやはりすごいと思う。

チャンネルNECO

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