前にも書いたが、私は新藤兼人は、脚本家としては凄いが、監督としては面白くないと思ってきた。真面目過ぎて、肩が凝り、どこにも息を抜くところがないからだ。
尾道の家に、カルフォルニアに行っていた長女の田中絹代が30年ぶりに戻ってくる。新藤の本によれば、家の借財のために「写真花嫁」としてアメリアに行った長女のことで、実際は一度も戻ってこなかったらしい。
長男は小沢栄太郎で、表は食堂だが、実は女を抱えていて、売春をやっている。妻は望月優子で、小沢は戦前は警察にいて顔が利くとのことで望月と一緒になったのだが、戦後は力を失っている。これも新藤の実兄のことのようだ。京マチ子は、神戸にいて田中に会いに来たが、なにをしているかはよくわからないが、彼女は夫の宇野重吉と共にブラジルに行こうとしていた。三女の水戸光子は、産婆をやっているが、これも実際のことのようだ。
さらに小沢の子の船越英二と市川和子も、アメリカ帰りの叔母の懐を狙って来ている。
金をめぐる親族の争いで、話は面白いが、あまりはじけない。
そこに小沢の離婚した先妻の杉村春子がやってくる。裁判で決まった慰謝料の送金が3か月も滞っているので取りに来たのだ。この杉村の出方が凄くて、何度も後姿だけ見せて、誰かと思うと杉村なのだ。
本当は貧乏の田中は、全財産の5万円の中から、3万円を杉村に渡して自分はアメリアに帰ると言う。
相当に辛辣な映画で、ほとんど自分の親族のことをシナリオはおろか、監督した新藤は只者ではない。悲しみは女だけにではなく、悲しみ、特に「貧乏はすべての庶民に」というべきだろう。キネマ旬報ベストテンでは16位、入れたのは鶴見俊輔、岡本博、多田道太郎らだけ。
ただ、川島雄三か渋谷実が監督したら、もっと面白くなったのではないかと思った。
角川シネマ有楽町