この映画の監督大島新の父大島渚は、よいドキュメンタリーができる条件として「長期取材と対象への愛」と言っている。
衆議院議員小川純也を取材したドキュメンタリーは、2003年に大蔵省を辞めて民主党から総選挙に出た彼を取材していて、長期取材はOK。また、その動機は大島新の妻が高校の同級生だったとのことで、対象への愛も十分。
ただ、肝心の小川君は、まじめで良い人のようだが、あまり面白い人ではないようだ。
この映画で一番面白い人は、小川自身が最初の演説で言っている「いい加減な父」の彼の父親で、美容師の母の「髪結いの亭主」の方だと思う。小津安二郎の映画『東京物語』でいえば、杉村春子の夫の中村伸夫の役どころである。
高松高校を出て東大法学部を卒業した小川は、自治省に入る。
日本の将来への危惧と、それに政治も行政も十分に応えていないことから、衆議院議員になることを目指すが、香川1区は、四国新聞のオーナー一族の平井に負ける。
だが、めげずに選挙に出るが、選挙区で当選したのは、2009年の民主党が大勝し政権を取ったたときのみで、他はいつも比例区での復活当選。
そして、彼はこの復活当選議員であることを恥じていて、党内でも認められていないと思うが、これは変だと思う。
選挙区だろうが、比例区だろうが当選すれば議員は議員である。
全体を見て、この小川君に似ているのは、宮沢喜一元首相だと私は思う。
宮沢も、小川と同様に、国の官僚(大蔵省)から政治の世界に出て、政策通を自認していた点は小川に良く似ている。
だが、宮沢は、人間関係が全く駄目で、例の小選挙区制導入を巡っての「嘘つき解散」のとき、小沢一郎などの自民党内の連中の反乱を受けたが、最後までそうした動きを知らなかったのだ。
一方、この映画を見て不思議に思うのは、小川君は、地元の市議会や県議会議員等との付き合いが描かれていないことで、本当にないのだろうか。私はないように思う。横浜市で議会を見てきた身からみれば、自公の国会議員は、地元の市会、県会の議員とは常に密接な関係を持っていて、それぞれの議員の持つ票を合算して選挙に勝つというものになっている。
要は、「どぶ板選挙」である。
小川君は、労組との関係はあるようだが、地元議員との関係は密接ではないように見える。
これでよく受かるものだと思ってしまうのだ。
2012年に民主党が敗北した時、「これを回復するには20年はかかるな」と思ったが、まあそうだろうか。
この映画で一つ大いに参考になったのは、
「安倍だから極右が出てこない、もし首相が谷垣や石破だったら、極右が出てきた。その理由は安倍自身が右翼なので、極右が出てこられない」という小川の、田崎史郎との懇親での意見で、これはなるほどと思った。
黄金町シネマベティ