用事があって野毛山の横浜市中央図書館に行くと、さすがに中央はいろんな本がある。
1960年代の日活アクション映画は、大好きだったのですぐに借りる。
鈴木清順の名作『野獣の青春』等のシナリオを書かれた山崎忠昭氏の遺稿集で、元は雑誌『イメージ・フォーラム』に掲載されていたものだそうだ。
日活アクション映画のシナリオ作成から実際の撮影までの裏話で、大変興味深い。
山崎氏は、日活からその後テレビのアニメに移られ、あるいは日本テレビの井原高忠氏らと仕事をするが、1999年に63歳でなくなられる。
中でも面白いのは、鈴木清順の『野獣の青春』のシナリオと出来た作品の違いである。映画の中で、信欣三が演じるヤクザの事務所は映画館にあり、スクリーンの裏になっているが、シナリオはただ事務所と指定されていただけ。
また、信らと対立する組の変質的ボスの小林昭二が情婦の香月美奈子を虐めると、いきなり黄色い砂嵐が起きるというシーンがあるが、これもただ「部屋で女をセッカンする」としか書かれていなかったそうだ。
いずれにしても、常に速成でシナリオは書かれていたが、それを監督以下の現場スタッフが豊穣な世界に作り変えていた。
鈴木清順監督以下、美術の木村威夫さん初め、優秀で映画好きなスタッフが総力を挙げて取り組んでいたから、面白い娯楽作品が出来たのだろう。
そうした撮影所システムが完全に消滅した現在、面白い映画が出来ないのは当然。
中で、監督中平康を相当に高く評価しているが、果たしてどうだろうか。
中平の映画はすべて見ているわけではないが、結局会社企画の『紅の翼』『泥だらけの純情』あたりが一番面白いのではないだろうか。
彼がデビューした頃、中平、増村は並べて論じられたが、今見ると増村保造の方が遥かに面白いように私は思う。増村からは、どんなにひどいときでも監督のメッセージが聞こえるが、中平作品からは余り聞こえないように思う。
最後に中平がATGで撮った『変奏曲』など、2007年10月にここでも書いたが、日本映画史上に残る「嘘そのもの」の映画だった。