以前に録画した「昭和演劇大全集」の長谷川一夫・東宝歌舞伎の昭和31年『百舌と女』を見て、久しぶりに芝居を十分に堪能した。
脇役が誠に充実している。
主役の長谷川一夫、越路吹雪の他、草笛光子、南悠子、岩井半四郎らの助演陣も、今考えれば豪華である。
だが、その先の脇役がとても良い。小川虎之助、谷晃、山田巳之助など、東宝の映画で脇をやっていたのが多数出ている。
特に、山田巳之助は、黒澤明監督の映画『生きる』に出ていたので、記憶されている方も多いだろう。癖のある因業な親父をやるとぴったりだった。
そして、長谷川の芝居の作り方が上手いのは、自身があまり出てこないところである。
1時間30分くらいの芝居で、出ている場面は合計20分くらいしかない。
主役は、ほんの少ししか出なくて良いのである。
だが、少ない出番で十分に芝居し、場面をさらい観客に強い印象を残して行く。
この辺は大衆向けの芝居を十分に知り尽くした長谷川の知恵だと思う。
勿論、脚本の菊田一夫も十分に知っていた。
つまり、芝居全体の構造、劇の流れは脇や助演の役者が十分に作り上げ、劇が盛り上がったところで主役はやっと出てくる。
まさに観客にとっては、「待ってました」となる。
大相撲で横綱が、寄席で真打が、それぞれ最後の最後に、出てきて打ち止めをするのと同じである。