「渡辺さん、あなたって孤独じゃないの」

BSで放送していた『昭和演劇大全集』が終了するそうだ。
渡辺保氏と高泉淳子との最後の対談で、大変面白い話があった。

昔、渡辺氏が演技についての本を書いたとき、女優の田村秋子にも贈った。
どこかで読んだが、渡辺保氏と田村秋子は以前から知り合いで、歌舞伎座であったとき、「邦夫ちゃん!」と呼びかけられたとあった。
渡辺保氏の本名は渡辺邦夫である。

すると田村秋子から電話があった。
「こんな演技論についての本を書くとは、あなたは孤独じゃないの」
渡辺さんも反論した。
「田村さんも孤独だったのですか」
すると田村秋子は、文学座でも演技の方法論について考え、話すような人間はいなかったと言ったそうだ。

田村秋子は、現在残されている映画、市川崑の『こころ』、木下恵介の『少年期』等や彼女の言動等を見ると、きわめてよく考えた、きちんとした「楷書の演技」をする方だったようだ。
それに対し、田村の伴侶でもあった文学座の創立者の一人でもあった俳優友田恭助は、天衣無縫な演技をする役者だったようだ。
言って見れば、この二人の演技の違いは、大映の二大スターの勝新太郎と市川雷蔵のようなものだったのではないかと思う。
そのために、田村秋子は演技に対してきわめて自覚的な役者にならざるを得なかったのだろう。

それにしても、『昭和演劇大全集』が終了するのは大変惜しい。
今回は放映されなかった古典歌舞伎、能などを含め、是非、新たな企画で再開してもらいたいと思う。

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