6月20日、土曜日の朝日新聞朝刊の「オピニオン・異議あり」に、作家佐野真一が,近年の図書館の変化についての記者の質問に答えていた。
感想を言えば、「この人はずいぶんと遅れているな」である。
彼が言うことは簡単で、図書館が売れ筋本ばかりを買い、貸しているのはよろしくない、図書館にはもっと別のやることがあるだろう、とのご意見である。
では、なぜ市民は、図書館でべストセラー本を予約し、借りるのだろうか。
答えは、簡単。
図書館以外、本を貸してくれる所がないからだ。
かつて日本には、昭和30年代まで、全国に約2万軒の貸本屋があった。だが、現在は多分全国でも300店くらいである。
減少した原因はさまざまだが、ともかく減った。
第一、利用者が図書館で本を借りる理由は、無料、節約のためではない。本を買っても家に置く場所がないからである。
買っても、いずれ邪魔になり捨ててしまう。それなら、買うのではなく図書館で借りた方がエコロジーからも良いとなる。
あるいは、どうせなら捨てるなら、ブック・オフに持って行くとなる。
ブックオフは、現在消滅してしまった貸本屋の代替でもある。
さて、貸本屋が減少した理由に、実は著作権法の規定があった。
同法には、著作物を貸与したときの著作権者の権利、「貸与権」があるが、ここに本と雑誌は2006年まで除外規定であり、適用が猶予されていた。
理由は、「貸与権」は、もともと昭和50年代の「貸レコード屋」対策の特別措置法からスピン・アウトしてできたもので、すでに江戸時代からあった貸本屋には適用するのはまずいとのことで、猶予になっていたのである。
つまり、本と雑誌については、一種の「無権利状態」で、極端に言えば、新規に貸本屋を始め、有料で利益をあげても著作者に一銭も払う必要がなかったのだ。
「これは、本当は問題だ」と日本で最初に指摘したのは、実は私である。
雑誌『出版ニュース』の2002年11月下旬号の論文『貸与権を整備してレンタル・ブックを』だった。
趣旨は、「貸与権を本と雑誌にも適用するようにし、正式に貸本も貸与料を取るようにして、レンタル・ブックを盛んにし、公共図書館との棲み分けをせよ」というものだった。
この私の提言を受け、文化庁が権利者団体等と調整し、著作権法を改正し、2006年から本と雑誌にも貸与料を課せるようになったのだ。
まだ、まだ多く普及していないようだが、横浜にもレンタル・コミックをやっている店が弘明寺にある。また、大手のゲオも一部の店舗で始めたようだ。
図書館が無償で売れ筋本を貸すのが問題ならば、民間企業が有料レンタルでベストセラー本等を貸すようになれば、この問題は自然に解決するだろう。
その証拠に、ほとんどの公共図書館では、本の他、今日ではCD、DVD、ビデオ等もただで貸しているが、それが問題にされたことはない。
なぜなら、この分野にはレンタル店があり、無償の公共と有料の民間がすみ分けているからである。本や雑誌もそのようになれば良いだけのことである。
そうじゃありませんか、佐野先生。