成瀬巳喜男の映画に、今回の「押尾事件」を予言した作品がある。
晩年の1本『女の中にいる他人』である。
小林桂樹主演で、彼の親友で隣家に住んでいるのが三橋達也、その妻が若林映子。
小林と三橋はとても仲が良いのだが、実は小林と若林はできている。
このキャスティングがすごいのは、小林という不倫など絶対にしそうもない役者が友人を裏切って密会していることだ。
ある日、小林は、東京の喫茶店でいつものように三橋と会う。
だが、小林は若林を誤って殺してしまって来たところなのだ。
だが、二人の間には何も起こらず、平然とコーヒーを飲み別れる。
実は、若林映子は、セックス中に自分の首を絞めてもらう性癖があり、その日も小林は首を絞めたのだが、言われるままに強く両手で首を絞めると、若林は死んでしまったのだ。
小林と若林の仲は誰にも分からないので、小林は犯人として疑われることはない。
会社の上司の十朱幸雄が、経理の不正をした社員を「こんなことをする奴とは夢にも思わなかった、人間って分からないもんだねえ」と大騒ぎする。
小林が「実は、私はもっとすごいことをしているのですが」と言う表情が大変おかしい。
最後、小林は、すべてを妻の新珠三千代に言ってしまうと、小林は新珠に殺されてしまう。
静かに江ノ島の花火を見る新珠三千代の冷静な表情の美しさ。
押尾事件で、部屋に死んでいた女は、肋骨が折れていたそうだ。
そういうプレイを互いに楽しんでいて、薬の性もあって急死したのだろうか。
押尾君も、成瀬映画を見ていれば、こんな事件を起こすこともなかったのではないだろうか。
成瀬映画のすごさを再認識した次第。