『北極光』『狼煙は上海に揚る』

フィルム・センターは、アンコール特集。
旧ソ連のゴス・フィルムからの「返還映画」で、1941年の新興キネマの作品。
樺太の真岡と豊原との間の鉄道建設を描く大メロドラマ、監督は戦後も大映で最後まで活躍した田中重雄。
樺太に実際ロケしたそうで、今では貴重な映像である。
主演は若原雅夫と思ったら、小柴幹冶という人らしい。結構、アクションシーンもこなしている。
女優も、分からない人ばかりで、分かったのは平井岐代子と浦辺粂子のみ。
筋は、極めて常套的なもので、古いと言えば古い。
最後、悪人たちの罪悪を情婦が暴くと、悪人にピストルで撃たれて死ぬなどと言うのは、時代劇の常套的な筋書だが、やはり劇は盛り上がる。
白坂依志夫も、三島由紀夫の映画『永すぎた春』の脚本を書くとき、監督の田中重雄に助言され、そうした手法を示唆され「古い手だなと思ったが、決まるのに驚いた」と書いている。
こうした方法論で大映末期の「女賭博師シリーズ」も作っていたが、結構サマになっていたものだ。
この田中重雄と言う人は、もっと評価されて良いと思う。
マキノ雅弘などは、ひどく過大評価されているのに。
最後、主人公が悪漢と泥沼で格闘するシーンがあった。
これは、明らかに黒澤明の『酔いどれ天使』のラストの三船と山本礼三郎のアクションシーンに影響していると思う。
黒澤は、映画のリズムは師匠の山本嘉次郎だが、画面の硬質さとテーマは日活多摩川の内田吐夢の影響を受けていると思う。

もう1本は、阪東妻三郎主演で、稲垣浩監督の、上海に行った高杉晋作が太平天国の乱に遭遇し、中国人とアジアはアジア人の手でと誓う、反英米映画『狼煙は上海に上がる』
これは20年くらい前に横浜の大勝館で見たことがある。
別に旧ソ連からの返還フィルムではなくても、角川映画のどこかにあるはずだが。
明らかに戦意高揚映画だが、阪妻の明るい笑顔には救われる。

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コメント

  1. uhgoand より:

    三条雅也
    小柴幹治とは三条雅也のことでしよう
    スマートな顔形に少しニヒルな感じの口元だつた――
    しかし 戦前から主演していたとは知らなかつたが 彼なら昭和29年小学4年生のときから知つている
    その後も東映や第二東映の脇役で数多く出ていたが そのころは小柴幹治となつていた
    紅孔雀の信夫一角はほんとうに憎らしかつた 当時少年みんなの敵だつた

  2. さすらい日乗 より:

    有難うございます
    小柴幹冶は、「キネマ旬報の俳優全集」に出ていました。
    ご指摘のとおり、戦前帝国美術学校(今の武蔵美)を出た後、新興キネマに入り、戦後は東映で悪役を三条雅也の名でやったようです。

    この辺の準主役は、やはり戦後は東宝、松竹には行かず、東映系に移籍したようで、日活、大映と東映とは関係が深いように思えますね。