女優の池内淳子が亡くなった、76歳。
彼女の最高作品は、誰がなんと言おうと川島雄三監督の『花影』である。
この大岡昇平原作の映画で、彼女は葉子という銀座のバーの女給を演じる。
「女給なんて古いわ、今はホステスと言うの。でも葉子さんは女給かな」
「よお最後の女給！葉ちゃん」と言われる。
ここでは、同棲していた批評家の池部良から別れ、有島一郎、高島忠男、三橋達也と男を遍歴するが、最後は誰とも幸福を得られず、自殺してしまう。
死の前日、再会した池部と桜を見に行くところが素晴らしい。カメラは岡崎宏三である。
また、本当は葉子が一番好きで、でもセックスはしない骨董評論家を演じる、詐欺師の佐野周二もとても素晴らしい。
かつての松竹の二枚目が寸借詐欺師を演じる。普通はまずやらない役だが、これは川島と佐野が、松竹大船以来の古い付き合いだからだろう。
この映画は、山岡久乃のマダム、淡島千景の旅館の女将、高城淳一のバーテン、筑波久子のアプレホステスなど、脇役も良い。
私は、川島雄三作品では、一番好きなものである。
あまり知られていないので、是非BS等で放映してもらいたいと思う。
池内では、この翌年の豊田四郎監督の『如何なる星の下に』にでも、山本富士子、大空真弓の間の次女役で出ている。
この頃、東京映画の専属だったのだそうだ。
もう少し、早く映画界に、それも新東宝ではなく、メジャーなところだったら、もっと作品に恵まれただろうが。
その割には、いい映画に出ていると言うべきだろうか。
ご冥福をお祈りする。