『喜劇・爬虫類』

渡辺祐介の作品は結構見ていて、そうひどくはないが、特に感動を憶えた記憶もない。

もっとも彼は、普通に面白い娯楽映画を作っているのであり、感動作なんてまっぴらと思っていただろうが。

松竹大船では、同じ新東宝出の瀬川昌治と並んで、城戸四郎社長のお気に入りであり、二人共多くの作品を監督している。

城戸四郎が東大が好きな性もあるだろうが、作品の出来がよく、それなりにヒットしていたからだろう。

さて、この喜劇は、渥美清、西村晃、大坂志郎、さらに森下哲夫の男4人が、アメリカ人ストリッパーを看板に北陸の田舎を廻るドサ・ストリップ一座の話。

渥美のヌードに合わせてしゃべる口上が傑作で、出身がハーバードやカルフォルニア、ペンシルバニア等の口から出任せ。

温泉場で、古馴染の風紀係刑事伴淳三郎の顔を立てたためにヌード禁止になり、たちまち舞台は閑古鳥になる。

そこに、小沢昭一が突如現れ、彼女はベトナムに行っている米兵の妻のアルバイトであることがわかる。

ここからは、渥美以下日本人のアメリカへの複雑な思いが炸裂し、彼女は基地に戻り、代わりに大阪のずべ公賀川雪絵をダンサーにして再出発する。

脚本の田坂啓や監督の渡辺、さらには昭和20年8月を敗戦で迎えた渥美清、大坂志郎、西村晃らにもある、ある種の反米意識だろう。

名著『戦後史の正体』も孫崎享にも見せたいような内容である。

併映の『スクラップ集団』は、筑豊から屎尿処理業を追われた渥美清、大阪でケースワーカーを辞めた露口茂、横浜での紙拾いから釜ヶ崎に来た小沢昭一らが、元医者の三木のり平と会う。

彼らは、この世のスクラップの処理、再利用が重要とのことで合意し、会社を作り、大成功する。

だが、独裁的な三木のり平のやり方に反発から、失敗に終わるというもの。

巨匠田坂具隆の遺作としては、やや物足りないが、原爆で体が不自由だったので、これ以後各社から企画が来ても田坂は、監督しなかったそうだ。

原作野坂昭如で、発想は面白いが途中で失速気味になるのが通例で、最後まで首尾一貫したのは、今村昌平の『人類学入門・エロ事師たち』くらいか。

新文芸坐

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コメント

  1. ogata より:

    私も見てました
    さすらい日乗様とは、かなり似たような映画を見ているように思いますが、いつもすれ違いが多いように思います。が、珍しくこの日の新文芸坐は、僕も行ってました。まあ、時間はすれ違っているかと思いますが。

    「喜劇・爬虫類」は同じような評価ですが、タイトルを見てて「爬」という字を覚えました。渥美清の映画ですね。

    「スクラップ集団」は、名匠田坂具隆の最期の作品と言う意味では、ちょっとビミョーかとも思いますが、それなりに楽しく見られる映画でした。スクラップ集団を結成し、ゾウの解体まで仕組むところが可笑しい。渥美清が筑豊に「石炭廃坑観光」を作るところなどは、時代に先駆けていました。夕張に実際にできた「石炭の歴史村」は面白かったけど、破たんしてしまいました。

    翌日は行かれたのでしょうか。「ネオン太平記」「3匹の狸」は、非常に面白く、小沢昭一の映画という意味でも興味深いものでした。特に、鈴木英夫監督の「3匹の狸」の、中国人やラスベガスの黒人富豪を演じるところは、日活無国籍アクションの記憶をバカバカしいほどに誇張していて、大いに笑いました。この映画は知らなかったです。鈴木英夫はずいぶん発掘すべき映画があるもんだと思いました。

  2. さすらい日乗 より:

    ありがとうございます
    翌日の『ネオン太平記』は、封切り時に見ているので、行きませんでした。
    この時は、『かぶりつき人生』と同時公開、どちらも白黒、関西の話で、まったく客が入っておらず、日活も大変だなと思ったものです。

    鈴木英夫監督は、演出、撮影に大変凝る人だったそうで、俳優からも会社からも嫌われていて、その分、評価が低かったのではないかと思う。

    小沢昭一は、怪外国人を演じた時が一番良いようですね。