昼間、『泣虫小僧』をフィルム・センターに見に行って、ついでに夜に見た『せきれいの曲』がとても良かった。
1951年の豊田四郎監督作品、脚本水木洋子、主演山村聡、轟由起子、有馬稲子。有馬はまだ17歳、宝塚在籍中の映画初出演である。
作曲家・山村と歌手轟は愛し合って結婚するが、些細な事から別れ、山村は公爵・斉藤達夫の庇護でフランスに行く。
帰国後新進作曲家として、戦時体制下でも活躍する山村に対して轟はついて行けず、ついには教職も失い、警察に逮捕される。しかし、轟は初心を忘れず音楽への情熱を娘の有馬に託す。
有馬は、山村が学生時代に轟に送った「せきれいの曲」を音楽学校の卒業公演で唄い、今は落剥した山村はラジオでその中継を聞く。
メロドラマには違いないが、時代をきちんと捉えた水木洋子の脚本が優れている。
西欧派だった山村が時局に迎合して「すめらみくに」などという歌曲を作ったとき、轟は言う。
「中身のない曲ね。どこにもあなたがない」と。
山村は言い返せない。
有馬がやはりきれいだ。竹内結子など問題じゃない。
轟は、とてもいい女優だと思う。1950年代の日本映画黄金時代はあまり芸術作品には出ず、娯楽作品ばかりに出ていたので、現在では有名監督とやった代表作がないが、戦前・戦中期を代表する名女優である。
晩年は日活に出ていて、高橋英樹の『男の紋章』シリーズでは母親だった。
やさしい日本の母親役の代表の一人だろう。