昭和16年9月に公開された、南旺映画製作、東宝公開作品、「秀子の」と付いているように、高峰秀子の主演作で、共演は藤原釜足、監督は成瀬巳喜男である。
甲州の田舎を走るバス、乗合自動車と言う方が相応しい、ボロ・バスの車掌の秀子と運転手藤原の話。
バス1台しかない貧乏会社で、社長の勝見庸太郎は、時代遅れのえばるだけのケチな男。
秀子と藤原は、乗客増のために作家の夏川大二郎に文案を頼み、遊覧案内まで始めようと努力している。
だが、勝見は、ある日田んぼにバスが落ちる事故が起きると、それを悪用して保険金を詐取しようと考えているレベル。
事故後、夏川らに意見された勝見は、バスを新しく改装する。
喜ぶ秀子と藤原だったが、勝見はバスを売り、バス事業から撤退しようとしていた。
昭和16年、日中戦争から太平洋戦争へと向かう中で、地方交通事業も、総力戦体制のため、次第に大企業に統合されつつあった。
時代に無関係に見えて、実は時代の動きを大変正確に反映させている成瀬巳喜男映画らしい作品である。
この作品を作った南旺映画は、映画法を作った代議士岩瀬亮が、森財閥の力で作った会社だった。
だが、皮肉にも岩瀬が推進した映画法の施行による映画会社3社体制の実施によって、南旺映画社は解散し、スタッフは東宝に移行する。
この映画の零細バス会社は、南旺映画社の姿のようにも見えてくる。
衛星劇場 高峰秀子特選