昔、川本三郎のファンだった。
最初の論文『同時代を生きる気分』には、雑誌に出たときに感動し、単行本になったときもすぐに買った。
『マイ・バック・ページ』も、出て読んだときは、泣いた。
だが、数年前、これを映画化すると聞き、「本当にできるのかな」と思った。
やはり見て思うのは、「これで赤衛軍と川本事件を知らない若い人は、分かるのだろうか」である。
話は、ほぼ事件に沿ったものである。
朝日新聞に入りたかった主人公妻夫木聡の川本三郎は、就職浪人をして入社し、「週刊朝日」編集部に配属される。
「500円を持って、山谷、新宿等の東京の底辺に潜入する」ルポをやり、新宿のドヤでは、テキヤのお兄ちゃんの子分としてウサギ売りをする。
ルポが終わり、それなりの評価が出たとき、同じ社の花形週刊誌「朝日ジャーナル」で、赤瀬川源平の「アカいアサヒ事件」があり、編集部の大異動があり、川本も部員になる。
当時は、全共闘運動が盛り上がっており、川本は先輩記者のTに誘われ、1969年9月1日に行われた日比谷野外ホールで行われた全国全共闘結成大会では、東大全共闘議長山本義隆を車で運ぶ役も果たす。
このとき、私も現場にいたが、「山本は必ず来る」と、「ヘリコプターからかもしれない」と三里塚反対同盟の戸村一作は、叫んでいたが、勿論、山本は場外で逮捕される。
その頃、川本とTのところに、「自分は京浜安保共闘の者だ」と松山ケンイチの菊井良治から売込みがある。
学生運動に詳しいTは、菊井はすぐに偽者と見破る。
だが、川本は、部屋に置いてあった宮沢賢治の文庫本に菊井が興味を示し、ギターでCCRの『雨を見たかい』を弾き、歌ったことから菊井を信じてしまう。
菊井については、いろいろな話があり、当時日大生だったが、その前歴から警察が送り込んだスパイだという説まである。
菊井の赤衛軍は実体はなく、たった4人の組織で、菊井はほとんど嘘つき、虚言症である。
だが、本当だと証明するため、菊井の指示で赤衛軍3人は、自衛隊朝霞キャンプに自衛隊の制服を着て侵入し、武器を奪おうとして自衛官を殺害する。
自衛官の制服を持っていた元自衛官と菊井らが知り合った経緯が分からないが、この辺のいかがわしさは、菊井と赤衛軍の性格そのものである。
川本は、菊井が持って来た自衛隊員の腕章を預かり、後に自分で焼いてしまう。
勿論、証拠隠滅であり、川本は菊井の自白によって逮捕・起訴され有罪になり、社も辞める。
その日、以前「週刊朝日」のカバーガールで、女優になっていた保倉幸恵が来る。
彼女は言う、「学生等の運動については、どちらかと言えば支持していた、でも今度の事件はとても嫌な感じがした」と。
その通り、この川本三郎と菊井良治の事件は、とても気分の悪い事件だった。
総じて言えば、これは、日本の反体制運動の脆弱さ、未熟さを現すものである。
最後は、本の『マイ・バック・ページ』にはない、その後のことだが、とても良い。
「キネマ旬報」の筆者となっていた川本は、試写会の後、場末の居酒屋に入る。
と、親父から「さん!」と呼びかけられる。
彼は、川本が、「潜入ルポ」の新宿のドヤで知り合った兄貴分だった。
彼は、川本が本当は記者であったことも、菊井との川本事件の主人公だったことも何も知らない。
彼ら大衆にとっては、ジャーナリズムも、革命運動も、殺人事件も、なにも関係ないのだ。
そのことに気づいたとき、初めて川本は嗚咽する。
因みに、保倉幸恵は、自殺した。
横浜ニューテアトル
コメント
山下敦弘監督 「マイ・バック・ページ」
妻夫木聡と松山ケンイチが共演し、1970年代初頭の全共闘運動を舞台に描いた映画、というくらいの感覚で、正直関心はなかったのですが
キネ旬での評価が結構良いので、やっぱ観ておくべきかと
今日の休みに観てきました。
http://mbp-movie.com/
原作は評論家・川….