1956年、松竹の川津義郎監督作品に、大映の若尾文子が出た映画。
浜松の楽器会社の女工の若尾は、事務職員の石浜朗と相思相愛だが、今一歩結婚には踏み切れない。
その理由は、彼女の父親明石潮は、道楽者で、旅回りの役者であり、兄の佐田啓二は、渡り土工という流れものだからだ。
事実、農家の次男である石浜の家では、兄夫婦が、父親と兄の身分を理由に強く結婚に反対する。
幼いときに、父が金の使い込みで懲役になり、それを悲観して母親は自殺したので、叔父東野英治郎の家に引きとられている。
東野は、床屋だが、妻岸輝子の養子で、口うるさい岸輝子に頭が上がらない。
この二人のやり取りが実に上手いが、俳優座の仲間である。
岸は、お寺の親戚の男との見合いをしつこく勧め、お寺でさせてしまう。
男は、田村高広で、意外にも優しい真面目な男で、若尾は結婚することに決める。
結婚話を壊してやろうと思っていた佐田啓二も、会って田村に「妹をよろしく」となる。
佐田啓二と、飲み屋の中年女の杉田弘子の、人生に疲れた二人の感じもとても良い。
東京で新婚生活を始めた若尾と田村は、子ができて浜松の祭りに戻る。
祭りの天狗に腹を触れられると、丈夫な子が生まれるとの言い伝えがあるからだ。
祭りの大人数の中にいる二人。
すると天狗が来て、若尾の膨らんだ腹を触る。
そのとき若尾は分かる。
「お父さん!」
明石潮は、素早くその場を立ち去る。
川津義郎は、言うまでもなく木下恵介の弟子で、弱い者への同情的な作品を作った監督である。
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