原田芳雄が死んだ、71歳。
彼を最初に見たのは、1969年俳優座の公演で、演出は、これも最近なくなった演出家安井武のデビュー作の『鹿の園』だった。
これは、その後の俳優座の分裂にもなって行く、若手中心の公演だったようだが、その中で原田は、他の役者と異なる鮮やかな印象を残した。
その後、出ていた日活の「野良猫ロック・シリーズ」は見ていなくて、映画で見た最初は、1972年の藤田敏八監督の『赤い鳥、逃げた?』だった。
石原裕次郎主演の『反逆の報酬』との併映だったが、今はない横浜東宝のガラガラの客席で見た。
ここで原田は、警察に捕まり、刑事の青木義朗に尋問されると、逆に「興奮しちゃだめだ!」と反論するなど、不思議な演技で驚かせたが、この映画の非常に「シラケタ」感じは大変新鮮だった。
中では、「することがなくなったら老人なんだ」とも言っていた。
これらは、勿論シナリオのジェームス・三木、監督の藤田敏八のものだが、現場での即興演出による、原田芳雄の工夫によるものでもあったと思う。
この映画の中で、よく見ると原田芳雄は、映画の経験があまりなかった桃井かおり、大門正明らをリードし、とても上手く助けている。
原田芳雄の演技は、適当にやっているように見えるが、実はよく工夫して細かくやっている。
この辺は、やはり俳優座にいたことが作用していたと思う。
新劇の演技法もバカにならないのである。
私が結婚したとき、妻が原田芳雄の、特に歌のファンだったので、渋谷の西武劇場(現パルコ劇場)で行われた彼の歌の公演を見に行ったこともある。
その頃だと思うが、原田芳雄が、私の大学の劇団の2年上の人で、女優もやっていた「小国さんと結婚した」と聞いたのは。
私が入団したときは、小国さんはもう女優はやっていなかった。
だが、彼女が新入生で劇団に入って来たとき、あまりに可愛いので、「最初に誰がデートするか、その順番を籤で決めた」との伝説が残っていた。
女優をやめた後、彼女は劇団俳優座の職員になり、そこで原田芳雄と知り合ったとのこと。
原田芳雄の出演作品の名作で、1975年の黒木和雄監督のATG映画『祭りの準備』があり、ラスト・シーンの原田の「バンザイ!」は大きな話題になった。
これは、久保田幸雄の本によれば、「オンリー撮り」でやったものなのだそうだ。
オンリー撮りとは、同時録音の際に、何かの原因で台詞が上手く録音できなかったとき、その場でもう一度役者にやってもらい録音するテクニックで、シンクロ録音が主流となった現在では、重要な録音技術の一つとなっているとのこと。
あのとき、電車が出てしまい何もないホームを原田芳雄に何度も走ってもらい、「バンザイ!」の名シーンを撮ったとのことである。
多くの作品で工夫のある演技を見せた俳優のご冥福をお祈りする。