『肉弾』

岡本喜八が日本ATGで、1千万円映画として作った有名な作品だが、今まで見たことがなかった。
理由は、この手の苦労話と共に語られる映画が嫌いなのだ。いろいろ言っても、所詮は「一将功なって万骨枯る」に過ぎないからだ。
その典型は、新藤兼人の近代映画協会方式で、タコ部屋での低賃金労働とどれだけ違いがあると言うのだろうか。

だが、この作品は、さすがに岡本喜八だけあって、低予算でも結構面白く見られるように作られている。
かなり有名な役者が多数出ていることで、だが皆ワンシーンのみで、それを主人公の寺田農がつなぐようにできている。
もう一人の子供が誰かと思ったら、雷門ケン坊だった。
ずっと出てくるのは、ほとんどこの二人で、俳優費を節約している。

大谷直子のヌードシーンのみで有名だが、この頃は実に芋くさい女優である。
だが、映画『やくざ絶唱』で、勝新太郎の義理の妹役に起用した監督増村保造によれば、「彼女は全くの抵抗感なくセックス・シーンが演じられる、日本では稀有な存在の女優だ」そうである。
確かに『やくざ絶唱』の大谷直子は、色っぽく美しい。
ここでは、妹なので勝新は手を出せないが、教師の川津祐介は、大谷に手を出し、捨てられてしまい、大谷は、血はつながらない兄弟の田村正和と結ばれる。

さて、この『肉弾』の面白さは、古本屋の笠智衆が、両手を空襲で失ってしまい、小便するのを寺田が手伝ってやるのや、最後寺田が特攻攻撃に出て漂流し、着いた先が、伊藤雄之助船長のオワイ船だった、というシモネタのギャグにある。
確かにこの手のギャグは、大東宝では使えなかったであろう。

最後、昭和43年の湘南海岸の若者の群れが出てくる。
まだ、少子高齢化以前の日本で、海岸に若者が溢れかえっている。
ここでも、藻谷浩介の『デフレの正体』が正しいことを再確認した。
衛星劇場

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