東宝にもあった妻の自立 『妻という名の女たち』

大映の増村保造の映画では、若尾文子が『妻は告白する』で、渥美マリが『でんきくらげ』や『しびれくらげ』で、大谷直子が『やくざ絶唱』で自立する女を演じたが、1960年代の東宝にも、この女性が自立する佳作があった。

東京代々木に住む司葉子は、証券会社のサラリーマン小泉博の妻で、幼稚園生の息子がいる。
ある日突然、左幸子が家にと現れる。
「小泉から、某社の株を譲られる約束をしたので渡して欲しい」と言う。
左幸子は、バーの女主人で、小泉が接待で銀座のバーを利用したときに知り家に合い、深い関係になっている。

小泉博の父は、藤原釜足、長兄の北村和夫も医者で、それを自慢にしている堅物の名家。
優柔不断な男の小泉は、妻と愛人の間をふらふらし、どちらにも決断することができない。
この関係は、東宝の成瀬巳喜男の傑作『浮雲』、さらにその続編とも言うべき『妻と女の間』の高峰秀子と森雅之の関係の、1960年代版だとも言えるだろう。

結局、家庭裁判所の調停に持ち込まれるが、その調停委員の長岡輝子と清水元が最高。
二人は、あけすけに司と小泉に質問し、二人の不和がセックスに起因することを聞き出す。
小泉は、司が妊娠中に商売女から性病を移されたことがあり、それ以来セックスがなくなっているのである。
長岡は言う
「昼は淑女のように、夜は娼婦のように」これが、夫の理想だそうですから。
そして離婚条件の話に移ったとき司は言う
「お金が欲しいんじゃないんです、夫が欲しいんです!」
司葉子、一世一代の名演技だった。

最後、小泉博は、会社での出世にも関係することから、左幸子と別れて家に戻るが、司葉子は、息子を連れて家を出て離婚に向かう。

監督の筧正典は、現在ではほとんど忘れられた監督だが、私は大変評価している一人である。
世代としては、堀川弘通とほぼ同じで、戦前・戦中の東宝の監督と、戦後派の岡本喜八、森谷司郎らをつなぐ役目を果たしたと思う。
クールな司葉子と熱演の左幸子との演技の対照も大変見事である。
小泉博の妹・ファッション・デザイナーの団令子の夫で、安サラリーマンのため団令子の尻に引かれている夫で、児玉清が出演。

その前に見た、久松静児監督、司葉子、フランキー堺主演の『愛妻記』は、尾崎一雄の小説『芳兵衛物語』が原作で、戦前に轟夕起子の主演で映画化されている。
健康的で天真爛漫、エネルギー旺盛な芳兵衛は、司葉子の資質ではないと思うが。よく演じていると思う。
ここでも、沢村いき雄、横山道代、加藤春哉など、いつもの東宝の脇役が上手い。
阿佐ヶ谷ラピュタ

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