昔、東宝は、「8・15シリーズ」として、夏に戦争映画をやっていたが、近年は東映が正月に戦争映画を公開している。
佐藤純弥監督の『男たちの大和・YAMATO』は、空疎な大作だったが、これはましな映画である。
だが、戦闘のドンパチを期待した人は大きく裏切られるに違いない。
一言で言えば、「メシ食い映画」である。
山本五十六は、ずっとものを食べてばかりいる。
だが、役所広司の山本五十六と、妻原田美枝子の家の食事の質素さには、「昔は、こんなものだったな」と改めて驚く。
親子5人の食卓にあるのは、ご飯と味噌汁の他、それぞれに野菜の煮物の小鉢はあるが、魚は一匹のみ。
それを役所が、子供らに取り分けて与える。
今で考えれば、到底考えられない貧しい食事風景だろう。
歴史的事実、経過はきちんと踏まえられている。
新聞社主幹で、独伊との「三国同盟」推進を扇動し、対英米戦を煽る香川照之が最高に面白い。
こういう悪役がいないと映画は良くならない。
真珠湾攻撃では、大成功をおさめるが、ミッドウェー戦では、南雲忠一第一航空戦隊指令官の優柔不断から大敗北になる。
以下、ガダルカナル戦の転進、最後の撃墜死と悲劇に終わる。
映画『仁義なき戦い』等の脚本家で、吳海兵団出身の笠原和夫のユニークな山本五十六論を紹介する。
彼によれば、酒を飲まず、大飯喰らいだった山本は、当時脚気に罹っており、戦時中は次第に無気力になったというのだ。
日露戦争の死者の大部分が、軍医総監森鴎外の間違いから来た米飯のための脚気だったことは、現在では有名で、それに対して海軍は、米食中心ではなかったが、昭和になると次第に米飯中心主義となり、栄養不良が蔓延していたとのことである。
ミッドウェー戦での、戦闘中も将棋を指していたというのも、脚気から来た無気力の症状の一つだそうだ。
最後に、一つだけ不満を述べれば、五十六の愛人関係を一切描かず、よき家庭人としていること。
もし、映画全体を愛人の芸者河合千代子の目から描けば、画期的な作品となったと思うが、脚本の長谷川康夫をしても、不可能だったのだろう。
上大岡TO-HOシネマ
コメント
Unknown
指田さん、今年も楽しく拝見しております。
山本五十六の映画は、確か昭和40年代に三船敏郎主演で公開されております。冒頭で三船の山本五十六が故郷の長岡で逆立ちをしているシーンをいまだに覚えております。今度は、役所主演の映画を観て、三船との違いを確認したいと思います。
今年もよろしく
ありがとうございます。
40年代のは、丸山誠治監督のもので、黒澤明の『トラ・トラ・トラ!』と偶然にも同時期に作られることになった作品ですね。見ていませんので、ツタヤで借りて見てみます。
見ました
丸山誠治監督の『山本五十六』を見ました。大変丁寧にきちんと作られているのはさすがです。特撮を含めて戦闘場面は、こちらの方がはるかにすごい。それもそのはず、監督以下が実戦の体験があったのですから当然と言えば当然。
やはりここでの山本五十六は、歴史的偉人です。役所広司のは、せいぜい高級官僚という感じですね。時代というか、役者の違いでしょうか。