『北の宿から』

1976年に都はるみのヒット曲をもとに作られた松竹の歌謡映画、と言っても都はるみに主演はさせられないので、主演は中野良子と田村正和で、都は秋田の田沢湖の旅館の女中になっている。
古代染色を研究している中野良子と、天文学の研究者の田村正和が、田沢湖で会い、中野が田村に惚れてしまう。
田村の居所が分からず、中野は東京で田村を探すが、現在では完全なストーカーである。
中野は、裕福な病院岡田英次の娘で、病院の医師有川博と婚約している。
岡田英治は、自分も鳳八千代の婿で、娘の中野にも婿を取り、病院を継がせようとしている頑固おやじというのが、進歩派の岡田に似合わない。
中野は、天文学者の田村に完全にイカレてしまうが、この天文学者というのが、実に浮世離れしていて、田村によく合っている。
二人は、一度はできて、中野は家出し、田村は、岡田のところに日参して結婚の許しを希う。
すると、岡田は、「今からでも遅くはないから医学部に入り、医者になって娘と結婚しろ」と説得し、田村も説き伏せられてしまう。
田沢湖に逃げ延びていた中野のところに、田村がその決意を告げに来ると、中野は落胆し、翌日田村も自分の否を悟り、東京に戻り、二人は分かれてしまう悲劇に終わる。

ここで監督の市村泰一や、脚本のジェームス・三木と篠崎好が描こうとしているのは一体なんだろうか。
娯楽映画にそんなものは不要かもしれない。
ただ、都はるみの歌に合わせて、スターが右往左往すれば良いのだろうか。
多分、この映画は、中野と田村を主人公にしたロメオとジュリエットのような篠崎の元のシナリオがあり、そこに都はるみのヒットに合わせて、彼女を挿入したものだと思う。
監督の市村泰一は、どのような題材でも上手く見せる人だったが、1960年代後半以降はテレビに移行していた。
だが、映画部門の大不振で、久しぶりに大船で映画を撮ったということなのだろうか。

中野良子は、あまり好きになれない女優だったが、松竹があえて東宝系の彼女を起用した理由は、これを見るとよくわかる。
彼女は、当時の時代を象徴した秋吉久美子や桃井かおりのような過激さはなかったが、それなりに1970年代の若者を表現する女優だった。
そのことは、劇の終り頃に、実は指名手配犯で、最後は心中してしまう下條アトムと原田美枝子のカップルと仲良くなり、互いに心を許すシーンでよくわかる。
この愚作の中で、唯一、中野良子が生き生きといしているシーンが、この下條と原田との交情の場面なのである。
中野良子も、それなりにいい女優だったことを証明する作品の一つだろう。
作曲の小林亜星が、警官役で出てくるが、猛烈に太っている。
衛星劇場

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