川口浩主演の1958年の増村保造監督作品。
原作が川口松太郎で、脚本は須崎勝哉。
増村映画としてはまだ初源的だが、後の作品に繋がるものが十分にある。
不良外人等の小金持ちから、ボーリング等の賭けで金を巻き上げて遊興生活している川口浩や三角八郎らの不良大学生。
銀座の親不幸通りの小料理屋に屯していて、そこの親父は潮万太郎で、言わば息子の川口浩を見ている川口松太郎である。
彼らは、学生運動にも、勉学にも興味がなく、良い会社への就職のみを考えているが、世の不景気から、ろくなコネもない彼らに良い就職口はない。
川口浩は、姉の桂木洋子と二人暮らしで、衣装デザイナーの桂木は、証券会社の男・船越英二と付き合っていた。
だが、妊娠を告げると船越は急に冷淡になり、去っていってしまう。
桂木は、増村と同時期にライバルとされた中平康の日活の盟友黛敏郎と一緒になるので、この辺の配役はなかなか興味深い。
それを知った川口浩は、船越の妹の野添ひとみに近づき、二人はできてしまう。
野添ひとみや市川和子らの若者が、『黒い瞳』等のロシア民謡をやたらに歌うのが笑える。
若者、イコール、歌声で、ロシア民謡なのである。
音楽は、伊福部昭先生の弟子の池野成で、シャンソン等を上手く使い、効果を上げている。
川口は、何事にも投げやりな男で、就職はどこでもよく一旦は、ケチなタクシー会社に決めてしまう。
だが、野添は、自分の妊娠を船越に言い、川口とも別れ、堕胎もせず自分で子供を育てるため、叔母のいる大阪に行く決意をする。
川口も、野添に着いて大阪行きの列車に乗り込むところでエンド・マーク。
ここでも増村保造が、描いているのは、世の何よりも、男女の愛が重要であり、「それに突き進め!」ということである。
野添ひとみの決意の前に、すべてにいい加減だった川口浩も引きづられ、野添との愛へ進んでしまうのだ。
その後、彼らがどうなるかは、別としても。数年後には、平凡で普通で退屈な、サラリーマン家庭になるとしても。
そして、野添ひとみでは軽量級だったのか、若尾文子、渥美マリ、さらには原田美枝子と中重量級の女優によって増村保造の路線は、一気に進行してゆくのである。
だが、増村保造の遺作は、映画『この子の七つのお祝いに』という、母親岸田今日子の呪縛に破滅していく岩下志摩の悲劇という愚作だったのは、実に信じられないことであった。
神保町シアター 『川口家の人々』