『滝の白糸』デジタル復元版

フィルム・センターでデジタル復元版『滝の白糸』を見る。
最長版であり、昔文芸座で見たときにはなかったシーン(銭湯で裸のおじさんが白糸の事件について口論する)があり、また筋がスムーズになっていた。
サイレントなので、音楽、台詞は一切なく(時々いびきが場内にひびく)、有名な「大阪って箱根より先なんですか」の白糸の台詞もないのは、残念。
溝口健二の出世作であり、サイレント映画の名作である。主演は入江たか子(入江若葉の母)と岡田時彦(岡田茉莉子の父)。
テーマは、女(白糸)の献身によって立身出世する男(欣也)であり、またその懺悔である。実際、溝口健二は、実姉が侯爵のお妾さんになり、その金で学校に行ったというから、実感が強かったのだろう。

泉鏡花の作品でいつも思うのは、明治時代はあんなに階級移動が簡単だったのだろうか、ということである。
ここでも、乗合馬車の馬丁だった村瀬は、白糸の援助で検事になり、白糸を裁く。
『婦系図』の主人公のスリは、真砂町の先生に拾われ(ホモセクシュアル的なのだが)、大学のドイツ語教授になる。
『日本橋』では、帝国大学の先生だった者が、突然ホームレスになってしまう。
こうした主人公の変異と、『夜叉が池』のように突然現れる動物や化け物の二つが「鏡花世界」の特徴なのだが、凡人の私はいつも理解不能になってしまうのだ。

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コメント

  1. ものぐさ太郎 より:

    「滝の白糸」その他。
    「滝の白糸」にかけて、三隅版「婦系図」について一言。
    途中まで、大傑作と興奮したが、後半に失速。泉鏡花ってそういうところありますね、確かに。「大阪って箱根より先なんですか」の台詞、漱石の「坊ちゃん」の婆や、キヨの台詞にもなっているほどで、私はこっちがオリジナルと思ってましたが、つまり、ああ、あれは漱石のもじりだったのかと、納得。もっとも、この台詞、鏡花の原作小説「義血侠血」にあったのか、「滝の白糸」として舞台化される際に付け加えられたものだったのか。
    黒木和雄の「父と暮せば」を見る。井上ひさしの舞台劇の映画化。ここ数年の日本映画の中では、一番感心した。「笑いの大学」とのレベルの違いに愕然とする。

  2. さすらい日乗 より:

    マキノ版との比較
    戦時中のマキノ雅弘の作品より、三隅研二の方が新派劇に忠実である。最も、見たのは総集編なので、本当はよく分からない。

    ただし、マキノの方がキャストが豪華、長谷川一夫、山田五十鈴、古川ロッパ、それにロッパの娘で、本当は山田の姉さん芸者でロッパの愛人の三益愛子が生んだ子が高峰秀子。
    三益の夫が山本礼三郎、これが実に粋だ。