『はつ恋』

1970年代の中頃、今はなき下川博と
「今の若手女優で、将来芸術座等の芝居で主役になれるのは誰か」と話したとき、
互いに一致したのは、大竹しのぶと仁科明子だった。

大竹しのぶは、その後も順調に映画、テレビ、舞台で大活躍し、今や押しも押されぬ日本を代表する大女優である。
一方、仁科明子は、松方弘樹との恋愛、結婚で20代で芸能界を引退してしまった。

その後、松方との離婚で復帰し、今は元新国劇の笠原弘等のややマイナーな商業演劇に出ているようだ。
そして、今回「子宮頸ガン・乳ガン」の娘とのCFで、日本で一番有名な女優になってしまった。
彼女も、今年は58歳のはずだが、彼女の数少ない主演映画が、東宝での1975年の『はつ恋』である。

言うまでもなくツルゲーネフの小説の映画化で、監督は世界のトム・コタニこと小谷承靖。
話は、孤独な少年井上純一が、きれいな女性に会い、恋すると、その人は父親二谷英明の妻となると言うもので、思春期の少年の心情がよく表現されていた。
そして、当時すでに内藤洋子なきあと、「この作品で東宝の主演女優になるのでは」と思われたが、松方との恋愛劇であっけなく引退してしまった。

映画『はつ恋』は、北極に恐竜の国があったという、上高地大正池で極地を再現した、トンデモ映画『ポーラボーラ』で、世界的に有名になった小谷承靖は、アクション、喜劇、SFと何でも撮る監督で、やや軽薄な印象を与えていたが、これは大変真面目な作品だった。
公開時に、蒲田の東宝で見たきりなので、この際是非見てみたい。
どこかで、仁科亜季子映画祭をやってくれないかと希望する次第である。
彼女の出演作品には他に、加藤泰の『宮本武蔵』、豊田四郎・市川崑共同監督の『妻と女の間』、市川崑の『悪魔の手毬歌』等もあり、なかなか変化に富んでいるのだが。

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コメント

  1. なご壱 より:

    仁科明子
    仁科明子は、昭和50年のNHK大河ドラマ「勝海舟」で松方弘樹と共演したことによって結婚へと進んだわけです。本来「勝海舟」は、渡哲也が主演でしたが、病気のため途中降板して、その代役が松方になりました。この時、もし渡が病気にならなければ仁科明子も女優を続けて全く違った人生となったかもしれません。
    余談ですが、この時、勝小吉役を演じた尾上松緑は、良かったです。昔、仕事で紀尾井町の紀尾井坂を下りきった右手にあった黒塀の松録の自宅の前を何度も通りました。
    表札には、尾上松録こと藤間豊と書かれていました。その家も今は、ブルガリの入ったビルとなっています。