『おおかみ子供の雨と雪』

宮崎駿の後を次ぐとまで言われている細田守監督の新作は、大変面白かった。
狼男と契ってしまった女の子(宮崎あおい)の話であり、獣人神譚であり、日本で言えば、文楽、歌舞伎の『葛の葉 芦屋堂満大内鑑』である。
もっとも、この『葛の葉』場合、獣、狐なのは、女性の方だが。
また、この『葛の葉』のような、獣と人間の恋愛話は、被差別部落など、ある種の差別された者たちとの恋愛を象徴したものだとも言われている。
歌舞伎でもよく上演されているが、映画でもかつて1962年に東映京都で、大川橋蔵と嵯峨三智子の主演で、内田吐夢監督の『恋や恋、なすな恋』として作られている。
今考えれば、よく作ったものだとも言える。

だが、私は、この話の主人公である雨と雪が象徴するものは、子供が抱く孤独感だと思う。
よく言われる「もらいっ子幻想」のように、子供は親たちに対して、大抵は馴染めぬものを持ち、それは、自分は、本当の親の子ではない、本当の親はどこかにいる、という幻想を持つものである。
さらに、今更引用するのも恥ずかしいが、雨と男の子が嵐の夜に二人だけ教室に残されたとき、互いに感じる感情は、太宰治の
「撰ばれてあえうことの恍惚と不安、ふたつながら我にあり」というものだと思う。

その意味で、この作品は青春期の心の本質を映像化した上で、長く世に残るものだと思う。
親子が移住する田舎の話は、エコロジーのユートピア幻想で賛成できないけれども。
ワーナーマイカルシネマ 港北ニュータウン横浜

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コメント

  1. Unknown より:

    Unknown
    私も良い映画だと思いました。
    ふたりの子ども(姉弟)がいてもなかなか親の想いとは違い、同じようには育たない母親の葛藤。
    子どもよりも若い親たちに見てもらいたい映画だと思います。