『ボブ・マーリー』

世界中のポピュラー音楽を愛好する私だが、シャンソンとレゲエには興味がない。
だが、ボブ・マーリーだけは唯一の例外で、レコードも持っている。
彼にはどこか悲痛な哀愁が感じられるからである。
今回、この伝記映画を見て、その理由がよく分かった。

この映画で初めて知ったが、彼は、妙な言い方になるが純粋な黒人ではなく、ジャマイカにいた英国の大富豪とジャマイカ女性との間に生まれた混血だったのだ。
ブラジルで言えばムラート、アメリカのニューオリンズでは、クリオールである。
ブラジル音楽に詳しい人なら、ムラート音楽の中心に哀愁があることはよく知っているだろう。
ボブ・マーリーにも、どこか悲痛な哀愁のような叫びがあり、そこが一種能天気な他のレゲエ歌手との違いを生んでいると思う。

今から20年以上前に、ナイジェリアのキング・サニー・アデと共に、ジミー・クリフがやってきて、読売ランドでフェステイバルをやった。
クリフの公演は、それなりのものだったが、なんとも腰の軽いもので、底抜けの明るさには感動できるものはなかった。
その点、ボブ・マリーは違う感じがする。
ラスタファリへの傾倒も、彼の混血というアイデンティティの不安から来るものだと思えば、納得できる。

キリストの再来であるジャーとされた、エチオピアのハイラシラシエ皇帝の来訪、ボブによるジャマイカの二大政党である人民国民党PNPとジャマイカ労働党JLPのそれぞれの党首の、コンサート会場での握手など、大変な熱狂の貴重な映像も多数入っている。
1971年4月彼は、ガンで死んでしまう。
今はこうしたカリスマは、世界中のどこにもないだろう。
角川シネマ有楽町

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